第39話玩具の凶器


 会社に戻った俺達は、一葉と阿久津を驚かせた。


 理由は、なんてことない顔で俺が車を運転してきたから。


「な……なんで鍵のない車を運転できるんだ?」


 俺は、一葉の疑問を笑って誤魔化した。秘するが花という言葉もある。いや、非合法だから言いにくいだけだ。


「ともかく、俺達の新たな目標が決まったんだ」


 俺と落葉それに細波は、三人で魔族の男について話した。彼と戦いたいと言えば、落葉のことがあるから反対されると思っていた。娘が危険に飛び込むのだから、心配しない親はいないだろう。


 だが、一葉と阿久津は思いの他あっさりとやりたい事を認めてくれた。


「すでに阿久津にも説明したが、真剣をもたせた瞬間から一人の武士として俺は落葉を認めた。それに、大人の記憶や意識があるのならば……俺の止めるところではない」


 一葉の言葉に、阿久津は頷いた。


「俺も、安久津と同意見だ。それに、話を聞いている限りは魔族は知識があるだけモンスターより厄介そうだ。放っておいたら、大きな被害がでるだろう。救いは、魔族の男が時間を巻き戻す能力を使いこなしてないってことだな」


 考えてみれば、阿久津の言う通りだ。


 魔族が時間を巻き戻す能力を使いこなしていたら、今頃は時間を巻き戻して細波を薬漬けにしていたことだろう。それが出来ないという事は、魔族は自分の都合では時間を操る能力を使えないということだ。


「相手の都合が悪くなっても、時間を巻き戻して逃げるという手が使えないのか……」


 俺達にとっては、行幸なのかもしれない。


「後は、作戦と武器だな」


 前の時間軸では、今よりも装備が整っていたのに負けた。護衛任務中で不意を突かれたと言うこともあるが、全て万全にしなければ勝つのは難しい相手だろう。


「魔族の男は、俺の母親が住んでいたアパートに向ったと思う。兄さんは身体を乗っ取られる前に、そこに母さんがいるはずだと言っていた」


 細波は、魔族の男が念の為に取り引きを執行させようとするのではないかと考えていた。


 取り引きは細波の兄から放棄したとはいえ、後顧の憂いというものは取っぱらいたいであろう。魔族の男が、細波の母親を狙う可能性は十分にあった。


「なら、上手くすれば待ち伏せが出来るか。相手は細波を殺せないわけだから、それを上手く利用できれば……」


 細波が武器を持っていないのが、そうなってくると惜しい。細波も同じ考えらしく、悔しそうな顔をしていた。


「せめて、モデルガンでもあれば……」


 細波の呟きに答えたのは、意外な人物だった。


「モデルガンなら、社長室にあるぞ。サバゲーをやる用の結構良いヤツ」


 阿久津の言葉に、全員が胡乱な目を彼に向けた。どうして社長室に玩具を持ち込んでいるんだ。阿久津は慌てた様子で、事情を説明する。


「だって、家には落葉がいるし。ほら、危ないだろ!ちゃんと許可を取って持ち込んでいるから!!」


 社長は、誰の許可をとってモデルガンを持ち込んだのだろうか。


 阿久津の立場が、この会社では弱すぎる。社長ってなんなのだろう、と俺は遠い目をしていた。


「それ、下さい。ちょっと改造して、威力上げます」


 細波の言葉に、阿久津は首を傾げた。


 俺は、苦笑いをする。ちょっと性能が良いモデルガンならば、改造次第で威力があがるのだ。無論、本物並ということではない。一撃ではよっぽど当たり所が悪くなければ、人を絶命させることはできない。


 だが、銃の名手が使えば凶器になる。


 細波は、余所にはいないほどの銃の名手であった。


「俺の方も色々と準備をしないとな」


 俺達の面子のなかで、戦いの準備を整えていたのは落葉だけであった。



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