第34話充のアシスト


「お父様。私たちは、仲間の細波と合流しに行くわ。銃声が聞こえた今だからこそ、彼の居場所が分かるかもしれない」


 落葉は、俺と同意見であった。


 離れ離れになっている細波と合流するのに、今以上の好機などないであろう。


 銃は、音が響く。


 それ故に、使い手の居場所もよく分かる。スマホが使えない今となっては、相手の位置が分かる機会は本当に貴重なのだ。


「……分かった。私たちは、しばらく会社を拠点としているだろう。何かがあれば、お前たちを待たずに拠点を移すつもりだ。それは、覚悟しておけ」


 俺と落葉は、そろって頷く。


「むしろ、身を守ってもらえるのは助かる。俺たちのことも心配しないでくれ。こう見えても戦い馴れているし、この街の地理にも詳しい。充のことだは頼む。あいつは、普通の女の子なんだ」


 俺は、大人に戻ったつもりで一葉に口をきいていた。自分が高校生だと気がついた時は後の祭りだったが、一葉は気分を害した様子はない。というより、戦いを通して俺も落葉と同じ兵士であると納得してくれたような気がする。


「じゃあ、行ってきます」


 落葉は、軽い言葉で義父と別れを告げる。再び会えると信じて疑わない挨拶であった。一葉の方も軽く頷くだけだ。


「ところで、お前らは先ほどキスしていなかった?」


 俺は、その場を離れようとした。


 そこを掘り下げたら、非常に困ってしまう。


 俺が一葉から逃げる前に、会社から走ってきて充に呼び止められた。彼女に手には、リュックがある。


「これ……。会社の人に分けてもらった水とおやつが少し。あと、私のハンカチとかティッシュを入れておいたから……必要だったら使ってね」


 俺と落葉は、顔を見合わせた。


 互いにモンスターの血液で酷い格好をしている。顔を拭ける水やハンカチは非常にありがたい存在であった。


「私に出来ることは……ほんの少しで。でも、待っています。……会社の人と一緒に、縁君をサポートできるように。それは……縁君が好きだからで」


 えい、と充は勇気を振り絞った。


 そして、俺の胸の中に飛び込んでくる。モンスターの血を浴びて清潔とは言えない姿の俺だったので、俺は大いに慌ててしまった。


「汚れる。汚れるって!!」


 俺は引き離そうとするが、充は胴体に手をまわして離れようとはしない。他の女だったら一言いいそうな光景を見ても、落葉は笑っていた。


 正妻の余裕とかではない。


 本来の俺たちの年齢から見れば、充は子供なのだから嫉妬すらしないのである。……たぶん。目が怒っているのは、俺の気のせいだ。


「縁君……。私は、縁君のサポーターになりますから。それで……だから……縁君と一緒にいさせてください」


 おねがいします、と俺から離れた充は頭を下げた。


 充が言い出したことは、本来ならば俺たちから言い出さなければならないような重大なことであった。


 俺たちだけでは、戦い続けられない。俺たち自身のことを助けてくれる人間は、必要不可欠なのだ。


「もちろんだ。むしろ、ありがたい。俺たちは、俺たち自身が武器みたいなものなんだ。だから、その武器を整備してくれる人間がいるっていうのは安心できるんだよ」


 充の顔が輝いた。


 ずっと暗い顔ばかりしていたのだが、笑った充は息を飲んでしまうほどに可愛らしい。花も恥じらうような年頃とはいうが、その貴重な時間を目撃してしまったような気分になってしまった。


 充の笑顔に見惚れていたのは、落葉にはしっかり分かっていたらしい。落葉が足を踏んできた。分かっている。今のは、俺が悪かった。


 充を女性として可愛いと思ってしまったのは、俺が本当に悪かった。


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