第33話響き渡る銃声
戦場で響き渡る銃声に、俺の脳裏に一人の影が過った。この時代では、銃を保つ人間は限られている。
一介の学生になった細波は銃を持てないはずだが、彼ならば難としてでも武器を手に入れるはずだという予感があった。
この銃声の元に、自分たちの仲間がいる。そう考えれば、戦場に立つ以上の高揚と安心感に包まれた。
「縁!きっと細波よ」
落葉は、叫び声をあげた。
彼女は、俺と同じように銃声は細波が放ったものだと考えたようだ。
「細波とは……誰だ」
モンスターを切り捨てながら、一葉は尋ねる。その姿は、俺たちと同じように血みどろであった。多数のモンスターを屠った証拠である。
「細波は、俺たちの仲間たちだった男だ。今は、たぶん中学生ぐらいに戻っている。銃の名手で、あいつのことだから今も絶対に銃を入手している」
細波は、自己評価が低い部類に入る。
銃以外は己の強みがないと考えているので、人並み以上に警戒心は強い。残弾数のことを常に気にしており、武器は絶対に手放さない。
細波は。銃がないと自分は弱いと思い込んでいるのだ。
身体能力が低いわけではないのだが、己の力を過小評価するからこその慎重さが細波にはあった。俺たちは、その慎重さに何度も助けられたのだ。
だからこそ、細波は銃を入手するはずだ。
どんな手を使ったとしても。
……本当に、どんな手を使ったとしても。
「なにをやらかしたんだろう……」
俺は遠い目をした。
細波はリスク管理を出来る人間だが、同時に最悪以外は何とかなると考えられる大胆さがある。彼であれば、現役の警察官を襲って銃を奪うことぐらいするだろう。そんな人間だと知っているからこそ、俺と一葉は銃声を細波だと考えてしまったわけだが。
「ふん!」
鼻息一つで気合を入れたらしく、一葉は最後のモンスターを切り倒した。切り捨てられたのは、破れかぶれになって真っ向から細波に立ち向かってきた大型の鳥のモンスターである。
本来ならば鋭いくちばしが脅威になるのだろうが、細波からしてみれば雑魚に等しいモンスターだったようだ。
「……この人って……前の時間軸で死んだんだよな。病気か何かでもしたのか?」
並みのモンスターでは敵わない一葉だが、前の時間軸では死んでいる。俺は顔と名前を知らないので、俺が落葉と知り合う前には亡くなっていたのだろう。
だが、この超人のような人が、モンスターに倒されたとはどうしても考えられないのだ。不治の病にかかって亡くなったことしか考えられない。
「お父様は……私を殺した魔族に殺されたのよ」
俺は息を飲んだ。
俺たちが戦っていた魔族の男に、前の時間軸の一葉も殺されていたらしい。俺たち三人でも倒せなかった魔族の男は、一葉にすら亡き者にしていたのだ。
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