第7話縁の体術
ゴブリンが、俺達の方に走ってくる。武器の棍棒を振り回しており、自らの興奮状態を表していた。非常に危険な状態である。
相打ち覚悟で、俺は腰を低くした。重心を下げて、拳を握り、基本のかまえを取る。武器がないというならば、今の体では頼りないが肉弾戦に持ち込むしかない。
未来では武器が限られていたなかで戦っていたのだ。肉弾戦の訓練と覚悟。そして、実戦は十分に積んでいる。
ゴブリンが武器を振り上げた瞬間に、俺はモンスターの懐に入った。息を吐き、全神経を集中させて俺はゴブリンの鼻面を殴る
「はぁっ!!」
俺の気合の一発で、ゴブリンは鼻血を流しながら仰向けに倒れた。
「はぁ?」
帰宅部の一撃にしては重すぎる拳に、俺は呆然としてしまった。だが、休んでいる暇はない。今度は、オークが俺達に向かってきたのだから。
オークは、ゴブリンよりも知能が高いモンスターだ。俺がゴブリンを倒したせいもあって、オークに油断ならない敵として認識されたらしい。
ただでさえ筋肉質な肉体が、さらに小山のように盛り上がる。オークは男性ホルモンが非常に多く分泌されるモンスターであり、雄は戦闘時には筋肉をより発達させることが出来る。
容姿が大きく変化するため、人によってはゲームのラスボスのようだと表現することがある。普段の姿が第一形態。戦闘時の姿が第二形態というわけだ。
第二形態の姿になれば、刃物類の攻撃はほとんど効かなくなる。日本刀の使い手である落葉であっても正面からは切りたくない相手だと言っていた。
なら、どうやって倒すのか。
そんな質問をかつてしたときに、落葉はにやりと笑った。
『強化しにくいポイントを狙うのよ』
清々しい顔で、落葉は教えてくれた。生物は関節の裏側が柔い。
言われて見れば当然だが、動く相手の関節を攻撃するのは難しい。だからこそ、訓練だ。
十や二十では、足りない。
百では、届かない。
千で満足して勿体ない。
これが、訓練に対する落葉の姿勢である。武人と言っていいほどに、落葉は自分の肉体と技術に向きあっていた。
それは、尊敬できるほどだ。
尊敬できることは、取り込まなくては勿体ない。
自分に向かってくるオークの拳を受け流し、俺は後ろを取った。この動きを血反吐を吐くほどに練習したのだ。人間よりも圧倒的に身体能力が優れたモンスターに勝つには、強力な武器を持つか心身の技術を磨くしかない。
落葉は、刀の技術を学んだ。
細波は、射撃の精度を上げた。
俺は、体術を愚直に磨いた。
三者三様の強みがある。それが、俺達という三人だ。
オークの後ろに回った俺は、奴の肘の裏を思いっきり殴った。ぼきり、と骨が折れる嫌な音がする。オークが痛みに声を上げている隙に、大勢をより低くして膝裏を足蹴りで狙う。
体勢を保てなくまったオークは、土埃をあげて地面に倒れた。足と腕を骨折していれば、まともに動くことなど出来ないだろう。これで、オークは完全に無力化された。
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