祖母の手帳(2)母と同じみち
「祖母の手帳」シリーズ続き。読みやすいように、一部の字(旧字?誤字?当て字?)を直して句読点を入れている。
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貧しくとも後家育ちだと多人(他人?)から後ろ指はさされるな。
雄々しく正しい人間に育ってくれよと聞かされた。
おさな心を胸に秘め、我もまた、母と同じ
幸福は、物質の宝は少なく欲し、精神の宝は多く欲するところに有る。
つみを悟りて仏となりし人なれば、我も生れながらの仏妻共に一つ。
ざんげの蓮華の法に許されん。
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このページには、古い戸籍謄本の写しが挟まれていた。
ミステリアスな内容の文末には、日付と戒名が書かれている。
ふと思いついて、手帳に記された年月日と、戸籍謄本を照らし合わせてみると……ビンゴ! 祖父の命日と一致した。
これは、祖父が死んだ日に、祖母が手帳にしたためた決意の言葉だったのだ。
貧しくとも後家育ちだと……
我もまた、母と同じ
文脈から察するに、曾祖母(祖母の母)も夫に先立たれて後家=未亡人となり、祖母と似たような境遇だったのだろう。
祖父が没した当日。
正確にいうと、祖父が服毒自殺をした日だ。
祖父はシベリア抑留者の生き残りで、帰国後に母が生まれた。
伯母(母の姉)たちは終戦前の生まれで、母とは一回り以上も歳が離れている。
昔、伯母から聞いた話によると、シベリアから帰ってきた祖父は人格が変わっていたそうだ。
もとは穏やかで繊細な人だったのに、浴びるように酒を飲み、手がつけられないほど暴れ回ったあげく自死したと聞いている。
戦時から抑留中、祖父の身に何があったのかわからないが、状況から推測して、重度のPTSDを患っていたのかもしれない。とはいえ、暴力をふるわれる家族はたまったものではない。
幼い母の記憶によれば。
祖父を荼毘に付すとき、祖母は火葬炉の前から片時も離れず、火葬が終わるまで長い間ずっと念仏を唱えていたとか。
このときの祖母の思いはひそかに手帳の中に記され、数十年の時を経て、今こうして孫の私が読んでいることに、不思議な巡り合わせを感じる。
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貧しくとも後家育ちだと多人(他人?)から後ろ指はさされるな。
雄々しく正しい人間に育ってくれよと聞かされた。
おさな心を胸に秘め、我もまた、母と同じ
幸福は、物質の宝は少なく欲し、精神の宝は多く欲するところに有る。
つみを悟りて仏となりし人なれば、我も生れながらの仏妻共に一つ。
ざんげの蓮華の法に許されん。
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母が没した日、私も何か書かずにいられなかった。
この性分は祖母譲りなのかもしれない。
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