祖母の手帳(1)憂きことのなおこの上に積もれかし

 母が「棺に納めて欲しい」とまとめた荷物一式の中に、祖母の手帳があった。

 条例で燃やせないモノがないか確認・仕分けをしながら、火葬までの数日間——、年末年始に「祖母の手帳」を読みふけった。


 繰り返し、ある言葉が書かれていた。祖母の座右の銘だろうか。


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憂きことのなおこの上に積もれかし

限りある身の力ためさん

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 うきことのなおこのうえにつもれかし

 かぎりあるみのちからためさん……?


 恥ずかしながら、古い歌になじみがなく意味がわからない。

 ネットで検索してみると、江戸時代前期の陽明学者・熊沢蕃山の歌だと判明。歌の意味は次のとおりだ。


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生きていると、苦悩や困難なことが降り掛かる。

人は苦悩と困難を経験するために生まれてきたのではないかと思うほどに。

それならば、苦難が降りかかることを良しとし、限りある我が身の力を試してやろうではないか。

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 次のページには、祖母自身の言葉が記されていた。

 読みやすいように、一部の字(旧字?誤字?当て字?)を直して句読点を入れている。


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子を産み育て、戦時戦後の苦楽とともに涙の日々もあったれど

神に恥づること無きを、我が幸せと励むなり。

強く生きるには苦しみから目をそらさぬこと。

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 祖母は母が結婚する前に他界したため面識がない。

 母や親戚を通じて、昔のエピソードを伝え聞いただけでまったく知らない人だ。でも、この手帳を通じて、私のルーツでもある祖母の人柄に少し触れたような気がした。

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