第15話 もう一人の男

あのオリヴァーをどうしたら追っ払うことが出来るか。

唯一の希望はオリヴァーの弟だが、その弟は戦場で敵軍と戦闘中だ。


ところが・・・

「アルフレッド王太子が帰還するらしい」

「兄上、それはまことなのですか?」


アルフレッド王太子ってのは、あのいけ好かないオリヴァー王太子の弟。

とにかく”出来る男”だそうだから、帰ってくるなら、さっそく引き込まないとなぁ。


「陛下、ただいま戻りました」

「おー、ご苦労であった。戦地からの報告読んだぞ、厳しい戦いのようだが、

 いまはどうなのだ?」

「はい、ただいまは副隊長に指揮を任せております。

 実に優れた指揮官であり、全幅の信頼を寄せており、問題はございません。

 早々に陛下へ喜ばしいおしらせが出来ると確信しております」

「そうか、ではしばらくこちらで休むがよい」

「はっ!勿体なきお言葉痛み入ります」


「アルフレッド!久しぶりだな!」

「これはこれは皇太子殿下、お久しぶりにございます。お二人ともお健やかな様子

 このアルフレッドも大変うれしゅう存じます」


「国王陛下にはお会いになったのか?」

「はい、先ほど戦況報告をかねてご挨拶を」

「オリヴァー王太子には?」

「いや、まだでございます」

「そうか、では兄王太子に会ってきてはいかがか?」

「そう致します」


「殿下、さきほど兄と話をしてきたのですが、

 私が知る兄とは別人のように感じたのです。何かあったのですか?」

「キミはしばらく宮殿から離れていたから解らないかもしれんが、長兄王太子が処刑

 されたのは知っているな?」

「あれは我が一族にとっても悲劇で有りましたゆえ」

「そうだ」

「サマンサという女が黒幕と聞いております」

「ん?なに私が黒幕とか言ってる奴がまだいるの?」

「あなたは?」

「サマンサ・アメリア・ジョンストンよ」

「なに!貴様が我が一族を悲しみのどん底に突き落とした女か!

 意外にも早く、われらが恨みを晴らす時が来たようだ!

 貴様!ここが死に場所と心得よ!!!」

サッと鞘から剣を引き抜くアルフレッド王太子。

私の前に二人の皇太子が立ちはだかる。

「殿下!何をなさいます!この女はわれら一族の敵でありますぞ!」

「待て!アルフレッド!」

「待ちませぬ!そこをどいてください!」

「話を聞いてくれ!これはキミにはつらい話になるかもしれんが、

 とにかく落ち着いて聞いてくれ」

「殿下がそうおっしゃるなら、聞きましょう」


今までの話をじっくりと聞いたアルフレッド王太子は、がっくりうなだれ・・・

「そうでしたか、こんな事とは思いもよらぬことです。

 サマンサ殿、申し訳ないことをした。兄に成り代わってお詫びする」

「解ってくれればいいのよ、アルフレッド?あなたならこの国をどうしたいの?」

「兄の不始末は私の不始末、この場で自決を・・・」

いやいやそうじゃなくてさ。あんたはどうしたいって聞いてるだけなのよ。

「兄の話も聞いてみたいと思います。そのうえで判断したいと考えますが殿下は?」

「あまり参考にはならないとおもうぞ、もはやあの男が国王陛下のそばにいるのは

 国を滅ぼしかねない事態となっている以上、排除する以外に道はない」

「わかりました、しかしながら兄は私の血族でもありますゆえ、今すこし猶予を

 いただきたく存じます」

「承知した、では明日には返事を聞かせて欲しい」

「了解いたしました殿下!」


「なかなか話の分かる男よね」

「私たちも彼には一目置いているのがお分かりと思うのです」

たしかに、話しぶりとか話し方は教養のある人物のそれだなとは思った。

「まぁあの男に言いくるめられることは無さそうね」

「私もそう思います」


アルフレッド王太子が、回答をもってやって来た。

「兄と話をしてきました」

「それで?」

「うーん、皆さんの前でこう言うことを話すのは憚られる気もするのですが」

「言ってみなさい」

「兄が言うには自分は悪くない。悪いのは皆さん方だという一点張りでして

 自分はその地位から引くことは国を亡ぼすと考えているようです」

「意外に頑固だな」

「そう来るとは思いませんでしたね」

「となれば実力行使でしょうか?」

「それはあの男の思うつぼよ。我々が悪者になりかねない」

「ですよねぇ」

皇太子も二人のメイドも、検察官も、頭を抱え込むばかり・・・困った男よね。


でも何か考えねば。


第15話 完




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