ストラップ

@Natsuki1224

謎ガチャ

 空が夕暮れに染まる学校の帰り道。

 私は帰り道の途中にあるゲームショップの外に置いてあるガシャポンにふと目が行った。

 それは『謎ガチャ』というタイトルのガシャポン。

 何が出てくるのか、開けるまでは分からないらしい。

 興味を持った私は、ガシャポンに百円を入れ、ガチャを回した。

 ーーガラ、ガラ、ポン

 出てきたカプセルを開けて、中身を確かめるとそれは青いストラップであった。

 ストラップか......

 もっと珍しいものが出てくると期待していたせいか、少し残念な気分になった。


『謎ガチャ』と書いているわりには何の変哲もないストラップで、また100円を無駄にしたようだ。

「ん……?」カプセルの中に小さい紙も入っていた。

その紙には、「東京都新宿三丁目〇-〇 日の出ビル3階102号室へ」と書いてあった。

「どこかの住所だろうか?ここに行けってこと?」

100円だし、興味本位でガチャを回してみたが、こんな怪しいところへ行くか行かないか迷うことになるのであれば、コンポタでも買っておけばよかったかと思った。


スマホの地図アプリにその住所を入力すると、どうやらここから徒歩二十分で行けるらしい。

ゲームショップの前をウロウロしながら考えた末、私は紙に書かれた住所に行ってみることにした。

「……やっぱり止めておけば良かったかな」

 住所を見た時点で薄々感じていたが、目的地に近づくに連れて、見た目が派手な人々を見掛けるようになった。

 何せこの辺はホストクラブやキャバクラが集中する繁華街であり、私は今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。

 しかし、ここまで来て引き返すという選択肢を取りたくなかった。


 なんといっても私はまだ高校1年生。まだまだガシャポンに興味を捨てきれないでいた。中身の見えないカプセルを開けることに心ときめいた幼稚な自分を殴ってやりたい。

 とある住所に向かって歩いていたのは17時過ぎ。私は漫画研究部という名のほぼ帰宅部に属していたため、まだこの辺りが本格稼働する時間帯ではなかったが、慣れない場所にひどく手汗をかいていた。

 恐怖心とは裏腹に、スマホの地図アプリに表示された目的地にどんどん近づいていく。

 きらびやかな看板が並ぶ大通りから小道へ入り、薄暗い路地裏の一角に「日の出ビル」はあった。

 想像通りの不気味な建物であった。


 私は勇気を振り絞って、その建物の中に入った。

 建物の中は薄暗く、視線の少し先には階段が見える。

 見たところ、かなり年季が入っているな……

 私はその階段を上ることにしたのだが、階段は想像以上に長く、ほぼ帰宅部の私には過酷な運動である。

 それに加えて、私は高所恐怖症だ。

下を覗き込むと、思わず落ちてしまうのではないかという恐怖心に駆られる。

――頑張れ私。下を見るからダメなんだ。上だけを見るんだ。

自分にそう言い聞かせて、階段を登り続けた。

やがて、階段を上りきると、引き戸式の扉の前に辿り着いた。

私はドアノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開けた。 


 扉を開け部屋の中へ進んでみると、真っ暗く、じめじめと湿っぽかった。

 道中も不安でいっぱいだったのに、目的地は思った通り不気味極まりなく、どっと疲れが押し寄せてきた。

 部屋の中を見渡すと、木で出来たテーブルがあり、その上にはカプセルが置いてある。

 私はそのカプセルを開けてみることにした。

 カプセルの中は赤いストラップと例によって小さな紙も入っていた。

 「『謎ガチャ』からこの部屋を訪れた者へ

  この次は 東京都豊島区池袋二丁目〇-〇 そらいろビル2階へ

  ※カプセルの中に入っていたストラップを忘れないこと」

 見て見ぬふりをして謎ガチャを回した事実をなかったことにしようか、ストラップの謎に引き続き近づこうか、私は階段を下りながら考えることにした。


「……行くか」

 自分の心にある好奇心に抗うことは出来ず、私は紙に記載された場所に行ってみることにした。

 地図アプリによると、次の場所までは電車を利用して、二十分ほどで着くらしい。

 丁度今の時間帯は退勤ラッシュであり、人混みに揉まれながら私は電車に乗り、最寄りの駅である池袋駅に降りた。

 池袋と言えば、と〇のあな、まん〇らけ、アニ〇イト池袋本店などオタク向けのお店が多数点在しており、私も買い物に来ることがよくあった。

 かつてオタクの聖地と呼ばれていた秋葉原も今や外国人向けの観光地と化しているため、池袋に引っ越すオタク客も少なくない。

 指定された場所は先ほどの不気味なビルと打って変わって、比較的新しさを感じるビルであった。

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