思考の連続、後悔の訪れ

 どんどん奥へと進んでいく。このダンジョンはずっと一本道なのか。なんのために作られているのだろう。考え事をしながらふらふら歩いていたら、目の前に扉が見えた。自分たちの倍ぐらいの大きな扉で、ここだけ誰かが住んでいるみたいだった。僕が扉を見つめているとアイルが「作戦会議をしよう」と言って、皆を集めた。

 連携を意識する事、死ぬかもしれない、と思ったら即回避をする事、仲間と自分を信じる事、と約束を交わす。だけど、マグマゲルのように爆発するかもしれない。何回も死を間近で感じたことが、判断を鈍らせる。でも、僕は自分の役割を果たすだけ、魔法を使って相手を足止めする、もしくは攻撃をすることに集中する。

 アイルが僕らに「行くよ」と声を掛ける。僕らは頷き、アイルは扉を開けた。目の前には炎の翼を生やした毛むくじゃらの悪魔が中央で座っていた。大きさはレッサーサーペントよりも一回りは大きい。魔物はこちらに気づくと立ち上がり臨戦態勢になった。アイルが「ブレイズデーモンか…来るよ、構えて」と言った。

 アルミがソウを唱える。魔物は動きを封じられた。その一瞬の隙をついて僕は網目状の水の檻の魔法「アクアケージ」を唱えた。魔物は不思議そうに檻を見つめる。コクは矢を放って注意を逸らし、アイルが剣で切りつける。翼以外は実体があるのか、物理攻撃が通る。だけど、アルミと僕の足止めはいつまでも続かない。魔物はついに魔法を破り、炎のブレスを吐いてきた。一斉に回避行動を取るが、二手に分断されてしまい、上手く連携が取れない。片方にはアイル、僕、アルミ。もう片方にはコク、ラフレとの形になってしまった。

 魔物は二つに分身して僕らの前に現れる。気味の悪い声で笑っていて、余裕をかましている。良く観察すれば分かるが、一体の分身は元の大きさの半分程だ。飛ばないなら、アクアアローだ、詠唱しようと構えたが、魔物が空を飛んだ。やっぱり、翼は飾りじゃないか。

何をしてくるか分からないが、僕は傍に居たアルミに「少しだけ止められる?」と聞く。足止め出来れば、上から水を叩きつける魔法「アクアフォール」を唱えて落とせるはずだ。アルミは頷いて「出来るよ、やる」と声を上げて、相手にソウを唱えた。僕はアルミに合わせてアクアフォールを唱える。目の前で洪水が起こり、敵の頭上に降り注ぐ。炎の翼は濡れて消失して、魔物は怒り狂い、僕を目掛けて突進してくる。アイルがそれを抑えて、足止めをした。僕が全力で「アクアブラスト」と唱えると目の前の魔物に衝撃が加わり、魔物は倒れた。

 僕が起こした洪水は部屋を分断していた炎を鎮火する。隣に、コクとラフレが戦い続けている姿が見えた。コクが矢を色々な角度から放つが、素早い動きで魔物が翻弄している。僕はアルミと一緒に駆けて行き「足止めをお願い」と叫ぶ。アルミは頷いて、魔物の動きを止めた。それに合わせて僕も詠唱して、魔物を仕留める事に成功した、そのはずだった。

 魔物は急に咆哮を放つと、元のサイズに戻った。魔物は肩を揺らして呼吸が荒くなっている、虫の息ではあるはず。魔物は容赦なく尻尾を僕らに振りかざす。駄目だ、回避が間に合わない。僕は一発食らうのを覚悟して両手を前でクロスする。でも、ラフレが僕の前に立って「バリア」と叫ぶ。光が僕らを包み込んで、魔物の尻尾は弾かれた。

 魔物はゆっくり、こちらに近づいてくる。コクは頭に狙いを付けて射抜いた。魔物は叫ぶ気力すら残っていなかったのか、その場に倒れて討伐することが出来たようだ。

 疲労と緊張の解けからか、僕はその場に座り込んだ。初めてこんなに大がかりな戦闘に参加した。アイルは僕に近寄って来ると手を差し出して「判断と魔法は上達しているね、でも集中力が足りないかな」と言って、僕を起こしてくれた。アルミも僕の頭を叩いて「駄目、魔法使いは集中が大事」と叱った。本当に死ななくて良かったと思う。僕は「ごめん」と頭を下げた。

 日の光を浴びて、伸びをする。馬車に荷物を積み込んで、帰還の準備を進めていく。達成感はあるものの、拭いきれない悔やみを感じる。僕の弱点は集中力にあるらしい。訓練を積み重ねていたはずだったのに、死のやり取りをするのは慣れていない。結局は経験が圧倒的に足りないのだろうな。

 馬車に乗り込んですぐに意識を失う。相当疲れていたようで、ガタガタ揺れる馬車の中でも気づかずに眠ってしまっていたようだ。アイルに肩を揺すられて目を開けると、ギルドの前に到着していた。酒を飲んでいない時でもこんなに眠った経験は無かった。アイルが受付から帰って来て「酒場に行こう」と言った。皆は酒を飲んで何を話すのだろうか。そんなことを考えながら、酒場を目指して歩いて行った。

 誰が見ようと不思議な光景だと思う。上位パーティの人たちが一般の人も来るような酒場に行くなんて。僕は皆に「普通の酒場使うんだね?」と聞いた。毎日のように通っていた僕が見たこと無かったのだから、普段から酒を飲む事は無いのだろう。アイルは頷いて「どこに行っても変わらないからね」と答えた。

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