(8)
帰ってからも練習を繰り返す。次の日にはダンジョンの中でもある程度出来るようにならないと、本当に死んでしまう。ひたすら放ち続けていると前から「熱心だな」と声が聞こえた。急いで魔法を別の方向に放った。辺りは暗く、僕の目からは見えない。ただ、目が慣れて来てよく目を凝らすと、コクが立っていた。僕は後ろにのけ反って「うわぁ!」と声を上げる。僕は驚きすぎて目を見開いているが、コクも驚いたみたいで「大きな声は出さない方がいい」と言い、僕の口を塞いだ。
ファイアスフィアを小さくして灯り替わりにする。コクは目を丸くして「お前を侮っていた、すまん」と言って頭を下げた。何故謝られたのか。寧ろ、侮っても仕方ないと思う。理由が分からない、僕は「なんで?」と聞いた。コクは悩みながら「多いからな、努力出来ない奴が」と首を振って答えた。
上位パーティに入りたいと志願するものの、皆が皆アイル達に合わせようとする訳ではない。離脱する者が多く、途中で受け入れるのを辞めたらしい。僕だって逃げるかもしれない。今はまだ分からないけれど。僕は苦笑いをして「まだ二日目だから」と言った。でも、コクは僕の言葉を遮るように「ああ、もう座学で駄目だったんだ」と首を横に振って呆れていた。
自分を変えなくていい人間が大勢いる。きっと、途中で諦めるのは、ある程度生活できている人間だと思う。未来を捨てて、安定を求める。それでもまた選択なのだから。そうだ、僕は手を叩くとコクに「どうしてコクは暗がりでも視る事が出来るの?」と聞く。視力の良さじゃなさそうだ。明かりが無い所を歩くなんて自殺行為のようなもの。コクは頷いてから「風属性魔法だ、使えるのだろう?」と答えた。
身体強化が出来ると聞いたけど、詳細な部分まで指定することが出来るのか。僕は目を細めて試しに使用してみる。でも、発動することが出来ない。攻撃には使えるのに、まさか身体強化は出来ないのか。僕は首を傾げて「あれ、使えない」と呟く。コクも僕を見つめながら「何故だ?属性に適正はあるのだろう?」と聞いてくる。僕はコクに向かって頷いて、もう一度試すが上手く行かない。発動には条件があるのだろうか。何回か試したが、コツが掴めない。僕が苦戦しているのを見てコクは考えながら「俺も詳しく教える事は出来ない。昔から慣れで使っているからな」と言った。
体の一部を飛躍的に能力向上させるイメージと言うのは簡単に想像の出来るものではないのかもしれない。きっと特殊なトリガーみたいなものがあるのだろう。そう言い聞かせて、一旦諦めた。
ダンジョンの入口まで戻ると、簡素なテントが三つ程並んでいた。僕らの足音に気づいたからかアイルがテントから顔を覗かせて「遅かったね」と言った。野営に慣れているのか、素早くダンジョンを攻略しているような印象があったのだけど。僕はアイルに「野営ってどうすれば良いかな?」と聞いた。野営での注意点は、魔物に対して注意するのではなく、人間に対して注意するのが重要らしい。盗賊に気を付けて交代で見張りをするのが基本だそうだ。ダンジョンに入るのは高位の冒険者が多く、寝ているところは的になりやすい。アイルは僕に「今回は見張りはやらなくていい」と言った。僕は頷いて「分かった」と言い、テントで眠りについた。
外で眠る事に慣れない所為で、いつもよりも早く目覚めてしまう。テントの外に出て辺りを見る。まだ、辺りは真っ暗闇だった。魔法で灯りを付け、訓練のために平原の方へ向かった。
ファイアアローを唱えて少し先の木へと放つ。手前で止める練習も兼ねて、的に向かって射っては、途中で止める、という行為を繰り返す。止める時にイメージがブレて木に当たってしまった。燃えてないか確認しようと目に力を込める。昼間みたいに明るく、それでいて一つの方向にピントを合わせるように。辺りが明るく見えて目を閉じてしまった。もう一度目を開けると、辺りは灯りが要らないぐらいに明るく見えて、遠くの木が近づいて見えた。何だ、簡単じゃないか。僕は視界が鮮明になる魔法にクリアと言う名前を付けた。
気づけば日が昇っていて、辺りは明るくなっていた。僕は急いでダンジョン入口に戻る。皆に心配をかけてはいけない、そう思ったから。テントが見えて来て、駆け足で近寄る。外で倒木に腰かける皆を発見して「ごめん、遅くなった」と言い、頭を下げた。皆は僕を見て頷く。アイルは僕に「また今度も同じ方針で行くよ、いいかい?」と聞いてくる。僕は覚悟を決めて頷いた。
ダンジョン内部に入り、慎重に進む。僕とコクはクリアを唱えて先を行く。しばらく歩くと、壁の一部にドロドロの何かがくっついているのが見えた。僕が触ろうとすると、コクが僕の手を引いて、飛びのいて「マグマゲルだ」と叫んだ。僕は咄嗟にマグマゲルに魔法を使おうとする。するとアイルが「駄目だ」と言い、僕を遮って剣で切り払った。パキッっという音と共にマグマゲルが溶けて消えて行った。アイルが僕に「水魔法を使うと爆発するよ」と説明してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます