(7)
僕を救いあげてくれた人だが、恐ろしく感じてしまう。簡単に戦地に出して魔物と戦わせる。僕の役割をもう一度確認したい。僕はアイルを見て「僕の役目は何だっけ?」と聞いた。分かりきっているけど、それでも疑問に思ったから。アイルは僕の肩を両手で掴むと「魔法での魔物の倒し方を記して欲しい」と答えた。そうか、アイルの目的は引退する事。冒険者を増やして引退することも出来るかもしれない。でも、何かもっと他に狙いがあるような気がするのは僕の考えすぎなのだろうか。僕は首を傾げて「何か大きな事をしようとしている?」と聞いた。アイルは首を横に振って「何も…何もないさ」と答えた。
アイルと会話が途絶えると、後ろから「私も混ぜてもらえないでしょうか?」と声が聞こえた。見るとラフレが微笑んでこちらを見ていた。そのまま混ざってきても良かったのに。僕は席を少しずれてスペースを作ってから「どうぞ」と言い、隣を指した。
焚火と小鳥の声が聞こえる程、静寂に包まれる。何かこちらから話しかけた方がいいだろうか。僕がきょろきょろしているとラフレはクスクス笑って「このパーティはどうですか?」と聞いてきた。何と答えれば良いだろうか。僕は頷いてから「憧れのパーティだよ」と答えた。ラフレは驚いて「そうですか」と言った後「アルミに悪気は無いのです、許してあげてくださいね」と続けて言った。
ラフレは右斜め上を見て考えた後アルミを呼んだ。アルミは気だるげにこちらへ歩いて来て「なに?」と首を傾げながら聞いた。ラフレは直ぐに「魔法について教えてあげられないですか?」とアルミに質問した。アルミは自慢げに鼻を鳴らして「いいよ」と言い「こっち」と言って僕を引っ張った。
ダンジョンの入口からどんどん離れていく。途中まで森が続いていたのに、いつの間にか平原に出ていた。アルミはいつまでも僕の裾を引っ張っている。まるで子供みたいだ。アルミが急に僕を振り返り「どこまで聞いた?」と言った。ドキッとした、失礼な事を考えていたのを見透かされた気がしたから。僕は深呼吸をして「基礎は…多分?」と答えた。
数メートル先にグリーンウルフが三匹程見えた。アルミは魔物を指さして「魔法に名前を付けると良いよ」と言って「ソウ」と呟いた。ウルフが動けなくなった。感心しているとアルミは続けて「ガルプ」と唱えた。ウルフが影に飲みこまれていった。縫い付け、呑み込み、確かに、イメージしやすいかもしれない。魔法はイメージを具現化するから、どうしてもタイムラグができやすい。それをカバーしているのか。
僕は何も居なくなった場所に向けて「アクアスフィア」と唱える。目の前に球体の檻が完成していた。名前を付けて、イメージが混ざらないようにしなくては。考え事をしているとアルミは少し不機嫌な声で「あっちにもいる」と言い残して、離れた森の中へ走って行った。
アルミに追いついて息を整える。膝に着いていた手を上げて、顔を上げる。目の前に僕よりも大きいサイズの蛇の魔物が居た。臨戦態勢で牙を剥き出しにしてこちらを睨んでいる。アルミは淡々と「レッサーサーペント、さっき練習した、やって」と言い、指を指す。取り合ってくれそうにない、僕も臨戦態勢に入り、作戦を立てる事にした。
レッサーサーペントより大きいサイズの魔物もいるだろう。感心しながら見ていると、魔物の頭が後ろに少し下がった。顔に向けて噛みついて来る気だろう。僕は左方向に体を逸らせて回避の準備を整える。案の定、魔物は突進して来る。躱して頭に火の矢を射る魔法「ファイアアロー」を当てる。魔物は断末魔を上げてのけ反った。
もしかして、才能があるかもしれない。自分の中で盛り上がって油断していた。魔物が予備動作に入った事に気づく事が出来なかったのだ。アルミがいつもより大きな声で「来るよ」と声を掛けてくれる。尻尾が自分の足目掛けて飛んでくる。それを躱して巨大な火の壁の魔法「ファイアウォール」と詠唱した。蛇と言う生き物であればジャンプはしないはず。魔物はウォールを難なく突破して上から噛みついて来ようとする。その瞬間を目掛けて爆発する魔法「ファイアブラスト」を唱えた。
魔物の死体を前に感動する。きっと僕でも倒せるぐらいだ、下位の魔物だろうな。それでも進歩している。座学と少しだけ実践をしたぐらいだから。アルミは魔物をくまなく見てから「こいつは中位の魔物」と言った。どういう事だ、中位の魔物を一人で倒させたのか。ぶっ飛んでいる、僕はため息を吐いて「あ、ありがとう。おかげで生きていたよ」と言って、冷や汗を拭って頭を下げた。
訓練が終わり、日が落ちてくる。ダンジョン前にアルミと並んで帰っていく。ソロで中位の魔物を狩れた事で内心ウキウキだった。そんな僕に横からアルミが「連携、大事」と釘を刺すように言った。確かに、パーティに入れてもらった以上、皆と同程度まで連携出来る事を目標に頑張らなくては。僕は俯いて「色々足りないところが多いな…」と呟いた。
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