(2)

 テーブルを囲んで皆で飲み物を持つ。他の人の視線を感じるが気にしない事にした。アイル達と飲み物を交わして「お疲れ様」と言い合った。


 無言で酒を飲む。重苦しい空気が漂っているが、不思議と安心できる空間だ。こういう時の酒場は反省に使われると聞いたことがある。僕は少し身構えながら酒を飲んでいた。ラフレは僕が緊張した様子なのを見て首を傾げて「あの、何も言ってないのですか?」とアイルに聞いた。アイルが頭を掻いて「ティムは寝ていたからね」と言って、僕の前に袋を差し出した。何だこれは、反省に必要な物なのか、僕が袋を警戒しながら見ていたらアイルが笑いながら「警戒しなくていいよ、帰還おめでとう」と言った。僕は更に困惑して中身を覗く。中にはお金が入っていた。


 僕は今回の依頼で手柄を上げていないはず。確かにお金は嬉しいけど、申し訳なさの方が強い。助けてもらい、教えてもらい、同行させてもらい、貰っている物の方が多いから。僕は袋を返すと「これは受け取れない、もう多くの物を貰っているから」と言った。アイル達の方が色々な所にお金を掛けているはずだから。アイルは帰って来たお金を見て「これは取り分だからさ」と言って、もう一度僕に渡してきた。そういうなら、僕は袋をカバンの中へしまった。


 カバンから書物を取り出して「今日の魔物の倒し方、まとめたよ」と言い、差し出した。特別な物は書いていないけれど、役に立てるなら。アイルはメモを見つめて「ありがとう」と言って食い入るようにメモを見つめた。

 アイルはメモをしまうと真顔になり「今後の計画を話そう」と言った。ダンジョンを全踏破、それと僕の育成、この二つに重点を置くと語った。

 油断と集中力は僕にとって最大の課題だろう。どこで油断する癖が付いたか全く分からない。知識の浅さも問題だ。連携は地道に出来て来ていると思う。戦闘で何回か見せたアルミとの魔法の連携はかなり良かった気がする。僕が深く考え込んでいたら、ラフレはパンと手を叩いて「仲良くなれば解決じゃないですか!」と突拍子もない事を言いだした。驚きすぎて顎の骨が外れたかと思った。驚いた僕を他所にアイルは平然と話を進める。僕を見て「酒が好きだよね?」と聞いてきた。好きか嫌いかで言えば好きか。嫌な事を全部忘れさせてくれたから。僕は言葉に詰まりながら「えっと、す、好き…かな?」と答えた。ラフレが驚いた顔をした後、アイルを見て「話が違いますね」と言い、アイルに詰め寄った。アイルは首を傾げると「あれ、酒場にいつも居たから、てっきり好きなのかと」と僕に同意を求める。そういう事か、僕は頷いて「記憶が飛ぶから、いつも居たよ」と話した。

 落ちこぼれと呼ばれていたし、実際に落ちこぼれだった。二進も三進も行かない、そう思っていた時に誘いを受けた。僕は皆を見つめて「このパーティに入れたから。落ちこぼれの自分が居てくれて良かったよ」と言い、笑顔を見せた。

隣から涙と鼻を啜る音がする。横を見るとアルミが涙を流していてギョッとした。そんなに感動する話ではないのに。アルミは僕に抱き着いて「分かる」と言った。なんで分かるのだろう。エリートには僕の気持ちなんて分かるはずない。コクが泣いているアルミを僕から引き剥がしながら「アルミは最初から魔法が使えた訳じゃないからな」と言った。

 アルミもエリートの中で苦悩を抱えていたのかもしれない。華奢な体をしているから魔法以外は使えないように見える。発動条件が今も分かっていないからきっと不安定なのだろう。異空間に飲み込む力、敵を足止め出来る力、この二つは闇属性にしかないけど、使えないと意味が無い。

 良く考えて見れば、水属性以外は揃っている。アイルもコクも魔法を一応使える。僕はアイルに「炎のダンジョンは踏破したこと無かったの?」と聞く。未知の領域をあの速さで攻略したのか。アイルは頷いて「属性が足りなかったしね」と言った。

 ラフレの光魔法も、詳しい事は分らない。発動条件は存在するのだろうか。ラフレを見つめながら考え事をしているとラフレは不思議そうに「どうかしましたか?」と覗き込んで聞いてくる。僕は体を少し後ろに引いて「光魔法の発動条件は分っていたりする?」と聞いた。ラフレは頷いて「思いの強さですね」と答えた。

 持っていたグラスを見つめる。上位パーティでも苦悩はあるのか。傍から見れば順調に進んでいるけど、きっと人知れず努力したのかな。アイルは手を打つと僕に向かって「そういえば、魔物を討伐出来た感想はどうだろう?」と聞いてきた。訓練の成果を十分に発揮できたかどうかは分からない。それでも、僅かにでも成長出来た、と確信できる。僕は頷いて「うん、僅かにだけど手応えがあるよ」と答えた。

 戦闘中に考えて行動に移す。相手に選択させて行動を絞らせて、魔法か剣で仕留める。この一連の動作を叩きこむことを目標にして頑張ろう。

 久しぶりに酒を飲んで気分が良くなってくる。ただ、今までのように無茶な飲み方はしない。明日に残ってしまったら大変だから。今までの日常とはガラリと変わって、ずっと気分が高揚している。明日が待ち遠しい。アイルが皆に向かって「明日は連携の確認をしよう」と言って、この場はお開きとなった。

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