(5)

 今、聞いた情報を冒険者全員に渡すことが出来たら、死亡率はかなり抑えられるのに。そもそも、最初に改革しなくてはならないのは、ギルドだったけれど。僕はアイルの顔を見上げて「僕はメモを取ってギルドに渡せばいいの?」と聞いた。アイルは微笑むと「そうだね、頼むよ」と言った。僕が、もう一度メモに目を下ろす時、アイルが小さな声で「変わりはしないけどね」と呟いた気がした。

 メモを書き終えてアイルを見た。アイルは頷くと「僕らのパーティに同行して魔物について学ぶといいよ」と言い、応接室に三人の冒険者を呼ぶと「自己紹介をして」と三人に向かって言った。

 一人が目の前に来る。魔女のような黒いローブで全身が覆われていて、フードから覗く綺麗な銀色の髪の毛と銀色の瞳。眠そうな目をしている大人しそうな女性。彼女はあくびを一つすると「アルミ、よろしく」と言った。僕が頭を下げようとすると横から「そんな簡単でいいのか?」と横やりが入った。

 彼はアルミを抱き上げて横にずらす。黒色の耳にかかるぐらいの髪、茶色い瞳。身のこなしが綺麗で身軽そうだ。待ちゆく人と変わらないような、白いシャツと黒いパンツで、軽そうな靴を履いている。目の前の彼は「中衛の弓を担当している、コクだ、よろしく」と言った。弓は珍しい、あまり使っている人を見たことが無い。アルミが頬を膨らませて「私と変わらない」とぶっきらぼうに言った。

 喧嘩が起こっている、どうすれば良い。僕は二人を視線で行き来して追いかける。勇気を振り絞って声を出そうとしたら肩を左隣からぽんぽんと叩かれて「いつも通りだから気にしないでくださいね」と言われた。隣を見ると、いつの間にか女性が座っていた。

 金色の髪を腰まで伸ばしていて、緑色の瞳で釣り目。大人な雰囲気がある。白いワンピースの上に皮鎧を着ている。彼女は「後衛の光魔法使い、ラフレです。よろしくお願いしますね」と僕の手を握って言った。

 憧れのパーティと喋った感想は独特なパーティの一言だった。一見纏まりが無さそうなイメージを感じる。きっと、戦場では違うのだろうな。僕は立ち上がり、一歩後ろに下がると「名前はティム、魔法使い、よろしく」と言い頭を下げた。アルミは僕を見て「皆一緒、自己紹介なんて」と言った。憧れの冒険者一行が目の前に居るのに、全く緊張しない。これが凄さなのか。アイルが手を叩いて「挨拶はこれぐらいにして、話を聞いてくれるか?」と言った。

 前衛、中衛、後衛。魔法使いの数が圧倒的に足りない。恰好から考えればアルミは魔法使いだと思う。だけど、四属性を一人で使える僕よりも希少な存在なのか。僕は首を傾げて「どういうこと…?」と呟く。アイルが僕の呟きに「見てもらった方が早いかな?」と答えて、部屋を出て行った。僕らも後ろからアイルを追いかけて行った。

 訓練場に着いて、アイルがアルミを呼んで、アーティファクトを展開する。闇属性以外の魔物が一体ずつ出てくる。四体の魔物は一斉にアルミに襲い掛かった。死ぬことは無いだろうが、一人で複数の相手とどう戦うのか。気づけば魔物はアルミの前に止まって、影に飲まれて消えて行った。僕は目の前の光景に「なんで…?」と呟いた。アルミは手で服の埃を払う。アイルは僕の方へ歩いて来て「闇属性の魔法の唯一の使い手だね」と言った。

 僕は乾いた笑いを一つしてため息を吐いた。才能の違いを否定したかったし、認めたくなかった。闇属性魔法なんて、発動出来れば勝ちだ。足止めが出来て、目の前の魔物を事も無げに飲み込む。更には光魔法でバフを掛ける事も可能。敵なしじゃないか。ただ、アイルは僕の様子を見て首を横に振って「闇属性は何も分かっていない諸刃の剣さ、発動すらままならない時もあるよ」と言った。

 アイルは何やら腕を組んで考え事をしている。顔合わせが済んで、一通りの確認も終わった。ああ、実際に魔物を相手にするかもしれないな。僕はアイルに恐る恐る「これだけじゃ…無いよね?」と聞いてみる。これだけの為に召集はしないだろうな。アイルは僕を見て頷くと「行こうか」とギルドの中へ歩いて行った。

 依頼を見つけて、受付に持って行く。相手の表情が強張り「え、ここに行かれるのですか?」と驚いた声で聞き返していた。どんな所に連れて行かれるんだ。僕らからは見えないがアイルは「うん、頼んだよ」と自信満々な声で返事をしていた。

 ギルドの前で待機する。目の前に大きな馬車が溶着して、全員で中に乗り込んだ。馬車が僕らを乗せて王都を出る。どんどん小さくなっていく街を見つめながら僕は「へ何処に向かうの?」とアイルに聞いた。アイルは頷いて「炎のダンジョンだよ」と答えた。

 いつもの癖で皮鎧を着ていて良かった。低級冒険者がダンジョンに乗り込むのに、何も着けていないのは自殺行為だと思う。僕に相談ぐらいしてくれても良かったのに。驚かせようとしているのか、僕を殺そうとしているのか。もう、感情がぐちゃぐちゃに混ざってどうすれば良いかも分からない。僕が固まって動けないのを見てアイルは「大丈夫、三属性使えるのなら、自信を持っていい」と励ましてくれた。

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