第4話遭遇
世界最強の筈だったアメリカ空軍は、宇宙人に全く歯が立たなかったのだ。
この事は全世界に大きな衝撃を与えた。
観戦気分でテレビを観ていたシチロー達も、ここへきてようやく事の重大さに気が付いたようだ。
「ヤバイよ!これじゃあ本当に宇宙人に侵略されちゃうよ!」
そして、そのシチローの言葉を聞いていたかのように、テレビのレポーターが報じた。
『こちらは新宿上空のUFOです!
テレビを御覧の皆さん、こちらでも大変な事が起ころうとしています!
なんと!宇宙人がUFOから降りて来ました!』
「なんだって!!」
ニューヨークの中継から新宿に切り替わったテレビ画面を、5人は食い入るように見つめた。
画面いっぱいにアップで映されたUFOの下からは、オーロラのように光のカーテンが降ろされた。
そして、百人近くはいるだろうか……
宇宙人のものらしい脚が、開かれたUFOの下部分から徐々に現れ出した!
まるで、SF映画のワンシーンのような光景だが、これはまぎれもない現実である。
まもなく現れる、生まれて初めて見るリアルな宇宙人の姿に、シチロー達は怖さも忘れて見入っていた。
爪先から徐々に明らかになる宇宙人の正体……
「いよいよ、上半身が出てくるぞ……」
そして……
ついに総勢百人の宇宙人の全身が新宿の上空に姿を現した!
「ワ~レ~ワ~レ~ハ~~ウチュウジンダ~」
「ノド叩いてるよ・・・」
さらに驚いた事がある。
総勢百人の宇宙人達は皆、あのアメリカ映画の大ヒット作『スターウォーズ』に登場する、ダースベーダーそっくりの格好をしていたのだ。
テレビのコメンテーターは、こんな憶測をした。
『もしかしたら、あの映画の監督は、当時偶然にもこの宇宙人に遭遇した事があるのかもしれませんね……』
それを聞いたジョンが、呆れたようにその仮説を否定する。
「それは逆だよ……
アメリカに滞在していたベタ星の総統は、スターウォーズの大ファンだったんだ。
それでベタ星人の戦闘服を、あんなデザインにしたんだろうさ」
「宇宙人もコスプレするのね……」
ジョンの解説に、子豚が妙に納得していた。
☆☆☆
この現象は新宿を皮切りに、全世界の主要都市で起こっていた。
かくして、ダースベーダーのコスプレをした総勢五千人の宇宙人は、地球に降り立ち、本格的な侵略が始まったのだ!
あれだけ大勢いた新宿のヤジ馬は、今やすっかり姿を消していた。
新宿の街にこれだけ人がいなくなったのは、前代未聞の事である。
今、新宿は宇宙人とそれを迎え撃つべく出動してきた自衛隊が互いに向かい合い、一触即発の様相を呈していた。
先に仕掛けたのは、陸上自衛隊の方だ。
横一例に並んだ狙撃隊がベタ星人に向かって、一斉射撃を開始した!
DA DA DA DA DA DA!
しかし、ベタ星人の方は余裕綽々である。
自衛隊の撃った弾丸は、おそらく特殊素材で出来ているであろう、ダースベーダーのコスチュームにことごとく弾き返されてしまった。
銃が全く通用せず、狙撃隊はたじろいだ。
そこへもって、今度はベタ星人が、ベルトの横に備え付けていた、短い棒状の物を右手に持って構えた。
ヴーウォンー!
「あっ!
レーザーサーベルだっ!」
青白く発光する剣を見て、テレビ越しにシチローが興奮して叫んだ。
青白い光を放つレーザーサーベルを振り上げて、ベタ星人は自衛隊に向かって切り込んでいった。
銃が効かないうえに、レーザーサーベルを振り上げて向かって来るベタ星人に、自衛隊もたまらず背中を向けて逃げ出した。
「なんだ!だらしない!」
テレビを観ていたジョンが思わず嘆いたが、実際にその場にいれば同じように逃げ出してしまうに違いない。
敵に背中を向けて、我先にと逃げ出す陸上自衛隊……
その中の逃げ遅れた自衛隊員に向かって、ベタ星人は容赦なくレーザーサーベルを振り下ろした!
「ぎゃあ~!やられたぁ~~!!」
時代劇の斬られ役のように、叫び声を上げて自衛隊員は倒れた。
「ああっ!」
しかし……
その数秒後には、斬られたはずの自衛隊員は、不思議そうな顔で背中をさすりながら立ち上がった。
「あれ…?切れてない……」
どうやら、あのレーザーサーベルは単なるコスプレの小道具のオモチャらしい……
「なんか、あまり怖くないわね……」
つまみの枝豆をほおばりながら、子豚が呟いた。
レーザーサーベルがオモチャだと分かり、自衛隊は再び活気づいた。
「怯むなあ~!行け~!」
人数では、圧倒的に自衛隊が勝っている。
その数的な勢いで、この戦いを征しようというのだ。
更に、ロケットランチャーや手榴弾も持ち出し、自衛隊が優勢かと思った。その時だった!
シュルルルルル~!
ベタ星人の指先から、大量の白い糸の様な物が飛び出したのだ。
「なんだこれは!」
そして自衛隊員の腕に絡みついた白い糸は、凄まじい膨張率でどんどん膨らんでいった。
「うっ…うぐっ……」
腕から肩、そして上半身……やがては体全体を包み込んでしまった!
自衛隊の抵抗も虚しく、次々と出来上がる繭型の白い塊は、あっという間に自衛隊の人数に達した。
「ああ~っ!自衛隊全滅だよ……」
テレビを観ていたシチロー達は、ガックリと肩を落とした。
テレビ画面に映るベタ星人は、勝利を確信するように右手を高々と上げて勝利の雄叫びをあげていた。
圧倒的な力の差を見せつけたベタ星人の次の狙いは、いうまでもなく新宿の街の住民である。
シチロー達も、呑気にビールなぞ飲んでる場合ではなくなった訳だ。
☆☆☆
「大変だ!新宿が宇宙人に侵略されちゃうよ!」
テレビを観ていたひろきが、大袈裟に騒ぎ出した。
しかし、あながち大袈裟とも言えないだろう。
今、新宿の街には百人のベタ星人がそこかしこに徘徊しているのだ……
いつ、この森永探偵事務所のドアを開けて中に入ってこないとも知れない。
ジョンが真剣な顔でアドバイスをする。
「外にはベタ星人がウヨウヨいる筈だ!
みんな、事務所のドアに鍵を掛け、決して外へは出るんじゃないぞ!」
「そうだ!何があっても絶対にドアを開けるんじゃないぞ!」
シチローがそれに続いて、メンバーに念押しをする。
先程観たテレビの映像が、5人の脳裏をかすめた。
「あの白い“マユ”のような物は何だったの?」
てぃーだがジョンに、あのマユの正体を尋ねた。
「さぁ……あんな物は初めて見た……
もしかしたら、あれを使って人間を生け捕りにするつもりなのかもしれない……」
「生け捕りにして、どうしようっていうのよ!」
ヒステリックに子豚が叫んだ。
「う~ん……実験材料にでもするのか、それとも“保存食”にするつもりか……」
「ヒッ!ヒェ~!あたし達、食べられちゃうの~!」
子豚とひろきは、真っ青な顔で互いに抱き合っていた。
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