第3話アメリカ合衆国VS宇宙人

アメリカ合衆国

ペンタゴン……


そこには、大統領を筆頭に、大統領補佐官、国防省長官、作戦参謀本部議長、NASAの局長、そして、陸、海、空それぞれのトップの人間が、この緊急の事態を乗り切る作戦をたてる為に顔を揃えていた。


「しかし、大変な事になりましたな……」


「いったい宇宙人は、何が原因でそんな態度を取ってるんだ?」


事情を知らない海軍と陸軍の大佐が、素朴な疑問を投げかけると……


「ゴホッ!ゴホッ!

ウオッホン!

…ま…まぁ、そんな事はどうでも良いではないか」


すかさず大統領補佐官が咳払いをしてごまかす。


「とにかく、あのUFOをなんとかせねば……我が空軍の精鋭部隊で総攻撃をかけましょうか?」


「そうですな……

戦闘機で後方に回り込み、ミサイルを撃ち込めば、UFOもひとたまりも無いでしょう!」


すると、陸軍大佐がまたも素朴な疑問を投げかけた。


「あの……ところでUFOって、どこが“後方”なんですかね?」


「え・・・?」


しんとした空気が、場内を支配した。


「いや…だから…窓がある方が前かな……」


「UFOは、360度窓がありますよ!」


「じゃあ、進んでる方向が前!」


「それも360度あらゆる方向に進みますよ……」


「う~~む……」


作戦会議は、開始早々、暗礁に乗り上げてしまった。


『円いUFOのどこが前か?』

というくだらない論争で、作戦会議は大幅に時間を費やしてしまった。


このままでは、埒があかないので、大統領補佐官は違う方面から話を切り出す事にした。


「実は『核』を使ったらどうかという意見もあるのだが、諸君らはどう思うかね?」


補佐官の『核』という言葉を聞いて、一同は驚きの表情で椅子から立ち上がった!


「核だって!!」


「何を考えているんだ!」


皆の意見を代表して、参謀本部議長が見解を述べる。


「いいですか!

核なんて使用すれば、もし無事に宇宙人を撃退出来たとしても、向こう百年は放射能でニューヨークは人間が住めない土地になりますよ……」


他の者もその意見に、当然だろうという顔で、一斉に大きく頷いた。


「いったい、どこの馬鹿だ!核なんて素人みたいな事を言う奴は♪」


「コミックや映画の見過ぎじゃないのか♪」


「まるで子供並みの脳ミソだな♪」


一同は、口々にそう言って、場内は大爆笑の渦に包まれた。


「ワ~ッハッハッハ~~~♪」










「言ったのは、私だが…ナニカ…?」


補佐官の横で一人だけ笑っていなかった大統領が、ポツリと呟いた。


「ハハ・・・・・・」


場内は一転して、重苦しい空気が辺りを包んだ……


こんな事で、人類の未来は守られるのだろうか。



☆☆☆



森永探偵事務所では、ジョンが最新の情報を得る為に、CIA本部へ電話をかけていた。


「局長、それで会議の結果はどうだったんですか?

…え?…UFOは、どっちが前でどっちが後ろかって?

そんな事、私が知る訳無いでしょ!」


しばらくの間、話をした後に電話を切ったジョンが、明るい表情でこう言った。


「みんな♪朗報だ♪

アメリカ空軍が、UFOに総攻撃を仕掛けるそうだ♪」


会議では、核攻撃の提案は当然却下され、無難に戦闘機による一斉射撃でUFOを撃退しようという結論に落ち着いたようだ。


ニューヨーク上空は、当然アメリカ空軍。

そこで勝利が得られれば、沖縄と横須賀のアメリカ軍と自衛隊の連合軍が、新宿上空のUFOを撃墜に向かう段取りだ。


「UFO対アメリカ空軍かあ~♪こりゃあ~ヘタな映画より迫力あるな♪」


相手が宇宙人という事もあり、シチローはまるで”井上尚弥VSタパレス”の試合でも観るかのようなつもりでいる。


「どっちが勝つかしらね♪」


そんな子豚の問いかけに、ジョンが自信たっぷりに答えた。


「愚問だな。空軍に決まってるだろ♪まあ、軍の圧倒的な強さを見ていなさい♪」



☆☆☆



高視聴率間違いなしのこの対決を、テレビ局が放っておく訳がない。


そんな訳で、ニューヨーク上空で繰り広げられるこの様子は、衛星生中継で日本のお茶の間でも観る事が出来た。


森永探偵事務所の面々とジョンは、テレビの前に集まって、この世紀の対決を心待ちにしていた。


「さあ~♪いよいよ、アメリカ空軍と宇宙人の戦いが始まるぞ♪」


テーブルの上には、ビールとおつまみが並べられ、完全にスポーツ観戦の様相である。


「ガンバレ~♪トップガン♪」


テレビ画面上では、今まさに人類の命運を賭けた戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。



☆☆☆



UFOの大きさは、東京ドーム位はあるだろうか……そんな大きな物体が、七色の光をランダムに発しながら、ニューヨークのビル群の上に悠々と浮び上がっている。


そして、そのUFOから少し距離をおいて、空軍のファントム機が編隊を組んで旋回していた。


『標的に狙いを定めろ!』


ファントムは一直線に横並びの状態から、扇状に広がりながら、広い範囲よりUFOに機首を向ける。


『標的ロックオン!

ミサイル発射~!』


後方に白煙を吹き出しながら、幾筋ものおびただしい数のミサイルがUFOに向かっていった。


激しい爆発音が響き渡り、UFOは煙に包まれた。


「やったぞ♪」


「グッジョブ♪」


テレビを観ていたジョンが、シチローの方を見て得意そうに親指を立ててポーズを決めた。




しかし……






勝負はまだついていなかった。




「そんなバカな……」


煙が収まって、その視界がはっきりと見えてくると戦闘機のパイロット

そして、ニューヨーク市民…いや、テレビを観ていた全世界の人々が、己の目を疑った。


それもその筈である。

あれだけ凄まじい攻撃を受けても、UFOは損傷ひとつ負ってはいなかったのだ。


「何故だ!確かにミサイルは命中した筈なのに!」


ジョンは、納得がいかないという顔で、テレビの中のUFOに向かって叫んだ。


その時、注意深くテレビ画面を観ていたてぃーだが、その真相に気付いた。


「“バリア”だわ!」


「バリア?」


「爆発の煙とUFOの間に、僅かだけど隙間があるのが分かるでしょ?

…つまり、ミサイルはバリアに遮られてUFOまで届いていなかったのよ!」


「スゲエ!さすがUFOだっ!」


シチロー達は、てぃーだの観察力と共に宇宙人の進んだ科学力に感心した。


そして……


ここから、宇宙人の凄まじい侵略がはじまった!


UFOは、まるで怒り狂った化け物のように、唸り声に似た轟音を発し機体を真っ赤に変色させた。


ヴォオオーーン


「今度はUFOが何か仕掛けるぞ!」


その直後だった


UFOが、カメラのフラッシュのように、眩しい光を瞬間的に何回も輝かせた。

そして、その光が発せられる度に、戦闘機が一機ずつ墜落していったのだ!


「いったいどうなってるのよ!」


そう、テレビに向かって叫ぶ子豚の隣で、ジョンが信じられないといった顔をして呟いた。


「あれは、レーザー砲だ……」


「レーザー砲?」


「そうだ…アメリカと宇宙人が共同で開発をしていたが、エネルギー源と熱対策の問題がクリア出来なくて開発を断念した最新軍事兵器だ……

まさか宇宙人が開発に成功していたとは……」


地球上で光より速い物は無い……

つまり、狙われたら最後、逃れる事など不可能なのだ!


戦闘機は、なすすべもなく端から次々と墜落していった。


幾つもの脱出用のパラシュートが情けなく空を舞い、戦闘機は地面に叩きつけられ爆発してゆく


「ガッデム!」


テレビを観ていたジョンは、悔しそうに拳をテーブルに叩きつけた。
















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