第51話 英雄は凱旋せずに
何千といた軍隊は、影たちの反撃により瓦解した。
それを信じられないと、サブローを含めた魔王の三人は呆然となっている。
「あわわわ、お、俺の軍隊が~」
「A子親衛隊もだなんてヒドイわ!」
「下位からの反乱など、だ、だ、だ、だ、断じてー許されんのだぞーー。おい三郎、こうなったら直々に罰を与えてやれ」
「お、俺としたことが柄にもなく取り乱しちまったな。そうさ、魔王の力を見せてやるぜ」
ずいっと出てくる魔王サブローに、影たちは動揺しだす。
「さすがにボスは俺ら影だと手に余るな」
「バカヤロー気弱になるな。って言いたいがここは本体の出番だな。おい、頼んだぜ」
心愛さんとじゃれ合うのが心地いい。
影たちが何かを言ってくるがそれどころかじゃない。
無視をして放っておいたら、ムンズと肩を掴まれた。
「おい本体、聞いてるのか。ボスは任せたって言ってんだよ!」
「んん、無理。だって忙しいもん」
「「「はあーー?」」」
影たちにキレられた。
もう少し心愛さんとの時間を楽しみたい。
心愛さんの温もりをいつまでも感じていたい。
なのに三バカだけでなく、影たちまでも邪魔をしてくる。
「コテツさん、行ってあげて。私も手伝うから」
「もー心愛さんは優しいんだからー。じゃあパパッと片づけてくるよ」
初めての花火デートを楽しめたけど、いささか周りが散らかっている。
これでは心愛さんとのデートに相応しくない。
綺麗するために、有無を言わさず極大忍術を放っておく。
「水遁の術・大瀑布」
轟音が轟くと大量の水が敵の頭上へ降りそそぐ。
凄まじいその勢いに地面が揺れ、視界も霧で霞む。
大水量に川ができ、散らかる死骸を押し流れていった。掃除をするにはとても便利な忍術である。
「わーー、水しぶきが気持ちいいーー」
「そ、そう? じゃあもう少し頑張っちゃおうかな」
しっとりとした心愛さんもまた魅力的である。喜んでいるし、もう少し水の量を増やしてみるか。
「クソ忍者、がんばるじゃねえぞーー!」
「ぬお、サブロー。まだ生きてたかよ」
滝に打たれ息は荒いけど、サブローにダメージは入っていない。
むしろ体が膨れ上がり、魔力を蓄えて絶好調だ。
どうやらサブローはカッパと同じ水属性のようで、水との親和性がかなり高いみたいだな。
怒っているのか喜んでいるのか、なんとも変な笑みをむけてくる。
そして受けた水の力を利用して、幾つもの巨大な水刃をつくり放ってきた。
それを手で払い、人質に被害がでないよう相殺しておく。
「クソクソクソー当たらねぇじゃねえか。おい女共、援護しろ。殿様の命令だー!」
また魔力の糸が四方の合コンメンバーへと伸びていく。
しかしさっきまでとは違う。だれ一人動こうとはしなかった。
「お、おい女ども、ヤレって言ってんだ。早くしろ」
「はん、お生憎さま《あいにく》。私らにその手は通じないわよ」
「な、なにーーー。殿様の言うことは絶対だろうが!」
「こっちには聖女さまがいるんだよ」
心愛さんのパーフェクト・ディスペルにより状態異常は解除され、
つけ入る隙はないと、心愛さんは頷いてくる。
「コテツさん、後ろは任せてください」
「うん、任しちゃう~」
障壁によりサブローの攻撃は跳ね返された。
俺ばかりに気をとられていたサブローの失態だ。
「ふざけんな。だったら力ずくでさせてやる」
懲りずにまた人を思い通りにしようだなんて、これはキツイお仕置きがいるな。
「忍法合遁の術・
俺の両手に炎のバチがあらわれる。
これは火属性と土属性が合わさった特別な忍術。
衝撃波で防御膜を打ち破り、祝いの炎で焼きつくす。
サブローは本能寺で焼け死んだ信長の後継者だ。
その性質を受け継いでいるなら、悪夢のような攻撃だろう。
そのバチで叩くと大太鼓の幻影が浮かび、ドーンと響いてサブローを吹き飛ばした。
「ぐおおおおおおおおっ、な、なんだこれー。あいぃぢいぢぃぃぃ。火が、火がーー!」
『お待ちを、三郎さまーー』
過剰な反応をして地面を転げ回り、それをカッパが追いかけ消火にあたる。
精神的にダメージが入っているし、これなら防御膜も容易く突破できるだろう。
「こうなったら奥の手だっ!」
サブローはそう叫ぶと、なりふり構わない行動に出た。
従うカッパを捕まえて、グシャリと握りつぶしたのだ。
潰されたカッパは水となり集まって、水壁となっていく。
『三郎さまがご乱心だー』
『お、お助けをーー』
「ぬおおお、何処へいく。お前らは俺の盾だ。大人しくしやがれ!」
戦々恐々となるカッパたちだが、魔王の呪縛には逆らえない。
なす術もなく潰されていき、分厚い壁が出来上がった。
「ふはははは、みなぎる魔力に水属性の壁、これで恐れるものは何もないぜ。さあ、クソ忍者の最後だ、泣き叫べ。もろとも日ノ本に風穴をあけてやる。くらえ、超越邪水龍爆痕!」
サブローは異様に膨らんだ体をゆすり勝負を挑んできた。
火に対し水属性は有利だし、繰り出されている技も最高位のものだ。
万に一つも間違いはないとほくそ笑んでいる。
「だけど、それでも甘いぜ」
炎のバチでなぎ払うと、水の壁は脆くも崩れる。まさに焼け石に水、この程度では俺の攻撃を防げない。
「な、な、なんだとーぐおおーーーー!」
打てば潰れ焼かれ遠のいていく。それを距離をつめてコンボをきめる。その歩幅は大きくなるが、途中で途切れさせはしない。
どんどん打ち込んでいくと、肉体はみるみるうちに削れていく。
「や、やめろ。こ、これ以上は。ぐぎぎぎーーーーーー!」
「ヤバいわ。回復を早くしなくちゃ」
「パパー、パパー、助けてパパーーー」
魔王の体が破壊と再生が繰り返され、苦痛が延々と続いている。
頼れる軍隊もなくなり防戦一方。
必死に逃れようとするその様は、殿様としての威厳など何処にもなかった。
だが決して手は緩めない。
連打を続け追い込んでいく。
「心愛さんに手を出して、虫のいいことを言ってんじゃねえ!」
だが少しやりすぎた。
強力な炎に大量の水が反応し、水蒸気爆発がおこって視界をとざされた。
場は騒然となり被害を確かめる。
「ゴホッ、ゴホッ。心愛さん大丈夫、怪我はない?」
「ええ、聖域を展開してますので、皆さんも無事です。あっ、コテツさん、あそこ!」
見れば鳥居をヨロつきながら駆けていく魔王サブローの姿があった。
三人の頭は不安定になっおり、今にも分離しそうである。
「ひいっ、ひいっ、助けてくれーー。俺には夢が。も、もうすぐ。そう、俺の千年合コンはすぐそこなんだ」
「三郎くん待ちなさいよ。ウチを置いて行くなんて許さないわよ」
「いつまでへばり付いてやがる。いい加減うんざりなんだよ」
「永遠によ、ウチちは未来永劫結ばれるんだからね」
互いに調和を拒み、己の欲求だけを突きつけている。
二人の会話に妥協はなく、純々の参加で更に混沌となっていく。
「痛いのヤダ。俺は上級国民なんだ。こんなの絶対にパパが許さないんだからなー。三郎、なんとかしろよ」
「オッサン顔で泣きわめくな。うっとおしい」
「いやだー、魔王になって辛いだなんて理不尽だろーーー。もっともっと楽させろ」
悪態と邪気を撒き散らしながら、
ちょうどその時、魔素が貯まったのか外界への門が開いた。
それを目ざとく見つけたようだ。
「おおおお、今なら出れる。そうすればヤりたい放題だ。クソ忍者も怖くねえ」
「待ちなさいよ。それよりも早く一つになりましょうよ」
「パパーー、助けてーーーーーー」
「だから、鬱陶しいから騒ぐんじゃねえ!」
既に道の半分ほどで、追うよりも先に外へ出られてしまうだろう。
「コテツさん、このままでは逃げられてしまいます!」
弱っていても魔王である。外で暴れられたら甚大な被害が出るのは目に見えている。
術の範囲の外でもあるし、山ちゃんの大刀の出番だ。
「あとは任せて。俺が狩るよ」
「はい」
心愛さんの笑顔に後押しされて、上段に構え魔力をこめる。
山ちゃんは精錬過程で、オリハルコンを凝縮させたと言っていたのは本当だ。
魔力を込めれば込めるほど入っていき、空気が震え空間がゆがんでいく。
際限が無いなんて、これはとんでもない代物だ。
「ここいらでブッ放つか。サブロー、覚悟!」
一歩前に出て振り下ろす。
刀が伸びたのか、魔力が飛んだのか、剣先が魔王に迫る。
「はっ、はっ、はっ。俺の勝ちだ。外で魂を喰らいつくせば忍者など目ではない。くくくくくっ、やはり俺は主人公になる運命なんだー」
ザグンッと心地よい音がした。それは魔王を真っ二つにした音だ。
あれほどあった距離を一気に詰め、切っ先は三人を全く同時に切り裂いていた。
回復する暇など与えない。
「あっ、あっ、あっ……パパ」
「うそ、ウチは姫なのに。こんの結末だなんて」
「お、俺の千年合コンの夢が、ぐふっ!」
魔力がまったく失くなった魔王の体は、急激に萎れていく。まるでミイラのカッパのようだ。
出口まであと数センチで、魔王の体は砕け散る。伸ばした腕は届かなかった。
その瞬間、ダンジョンに満たされていた陰鬱な空気がガラリと変わり、春を思わせる和やかな風がふいた。
崩れたチリを風が乗り散っていく。
傍らで心愛さんが微笑みかけてきた。
「コテツさん、やりましたね。今までで一番格好いい決めポーズでしたよ」
「いやいや、心愛さんが見てくれていたからね。全て君のおかげだよ」
「ううん、私はコテツさんが無事であるようサポートをしただけよ」
「なんて奥ゆかしいんだ。……ゴクリ、こ、心愛さん」
「コ、コテツさん」
また縮まる距離に視界が狭まる。
荒くなる呼吸、潤む瞳。
俺は心愛さんが大好きだ。いつまでもこの想いを大切にしたい。
そう一歩近づこうとしたら、周りが急に動き出した。
「やったー、愛染さまが魔王を倒したわ」
「ばんざーい」
「奇跡よ、あんな化け物をいとも簡単にやるなんて、格好いいー」
忘れていたが合コンメンバーたちもいたんだな。
なんだか俺よりもテンションが高いので、俺の方が冷めてしまう。
「愛染さま大好きーーー」
「合コンの続きをやりましょう、きゃーーーーー」
調子にのって抱きつこうとしてくるのを、両手を突きだし拒否をする。半歩退いていて良かったよ。
「待て待て、君らにもまだやる事があるだろ。それを忘れて浮かれるな」
「えっ、そ、それは?」
「君たちはギルドへの報告。そして俺達はアソコだよ」
教えるつもりはなかったが、仕方ないので天守閣を指さす。
するとみんなは驚き後ずさった。
「も、もしかしてまだ他の脅威があるのですか?」
「S級ボスのあとに出てくるバケモノだなんて。想像しただけで気が遠くなるわ」
「す、すみません。ついて行きたいのは山々ですが、私たちだと足手まといに」
「そうだな、ついて来られても困るよ。というか邪悪だからさ、もう行ってくれよ」
「格好いい、さすが唯一無二のSSSランクの愛染さま。危険があるとしてもその覚悟の程がハンパないわ。こ、これ以上はクチをはさみません。私ら愛染さんを信じてます。さあ、みんな戻りましょ」
「ええ!」
涙ぐむ女性たちが、完全に外へ出たのを確認する。邪魔者がいなくなって、やり易くなった。
やっと心愛さんと二人きりになると、不思議そうに聞いてくる。
「コテツさん、天守閣にまだ何かいるのですか?」
「いや、二人で食事でもしようかと思ってね」
「やっぱりだー。何も気配がしないし、おかしいと思ったんですよ。びっくりしちゃった」
「あれっ、ダメだった?」
「ううん、コテツさんらしいなあっと思ってね」
頭を掻いてごまかして、あそこへ登ろうかと視線で天守閣を指しておく。
すると心愛さんは腕を俺の首にまわしてきた。
これはいつもの仕方なくのお姫様抱っこじゃない。
恋人のそれであり、自然な流れでお姫様抱っこをした自分に驚いた。
この幸せを噛みしめ、外壁を登って中へと入る。
全面に金箔を貼られた豪華な部屋だ。
悪趣味だなとひいたけど、用意をしていた物を並べていくと、以外や以外シックな感じでまとまっていく。
オシャレな椅子やテーブルを並べ、上からは天蓋をかける。
そこへ照明を置くと部屋の金箔に反射して、なんとも妖艶な雰囲気だ。
花をそえると、また一段と大人の空間へとなり、眼下に広がる城下町とマッチした。
「すごいなぁ。これってもしかして、今日のために用意をしたのですか?」
「ああ、このところ忙しかっただろ。だから大事な話を出来る、そんな時間を作りたかったんだ」
「大事なって、もしかして?」
「う、うん。そのつもりだった」
元より告白する計画でいたのが伝わったようだ。
心愛さんはハニカミ上目遣いで聞いてくる。
可愛すぎて悶絶するが、恋愛初心者の俺には荷が重く、つい話題を変えてしまう。
「ち、ちなみに、さっきの返事なんだけどさ。『はい』ってのは刺す方のじゃなくて、お付き合いのでいいんだよね?」
「うふふふ、もちろんですよ。初めて会った時から、そう望んでいたのですから」
「初めからって、あの合コンって事?」
「はい」
それはにわかには信じられない。
だって初合コンはズタボロだった。
ギャル二人に良いようにあしらわれ、裏でも散々馬鹿にされて、すっかりと自信を失くしてしまった。
俺にとっては黒歴史、思い出さないでおこうと封印をしていた過去である。
そうさ、敢えて思い出さないようにしていたのだ。
「んんん、待てよ。本当にそうなのか?」
その封印していた記憶を掘り起こす。本当に全てがダメだったのか?
よくよく思い返してみると心愛さんだけは優しかった、そんな映像がフラッシュバックする。
そうだよ、全然ギャルとは違ったよ。
トイレでもフォローをしてくれていたし、再会したダンジョンでも好意的だった。
もしかしたら、彼女にしてくださいってのも聞き違いじゃなかったかもしれない。
それに気づかず、俺はうじうじと遠回りをしていた。情けないったらありゃしない。
でもそれもここまでだ。
もう一度きちんと想いを伝えよう。居ずまいを正し深呼吸をする。
「待たせてゴメン。その償いじゃないけど、こらからは二人の時間を大切にしていこうね」
「はい」
言えた、今度は目をつむらずとも言えた。そして優しく長いキスをした。
また風が吹いて天蓋をゆらす。
なあ、あの頃の俺。この前の泣き言は撤回するよ。
山ちゃんの言うとおり、忍者は合コンでモテるぞ。
それも超絶ウルトラむちゃくちゃハイパーにだ。
だから自分を信じていけ。未来はすっげえ楽しいぞ。
もう一度いう。忍者ってのは合コンでモテるんだぜ。
~完~
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ここまで読んで頂きありがとうございます。
あなたにお願いがあります。この作品への応援をしてください。
草花には光と水が必要のように、
作品には【作品フォロー】や星★の【おすすめレビュー】が力になります。
正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です。
面白かったら星★3つ、つまらなかったら星★1つとありのままでの声を聞かせて下さい。
作者フォローもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。
忍者って、合コンでモテるらしいよ 桃色金太郎 @momoirokintaro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます