第21話 ギルド大騒ぎ
心愛さんがめでたくジョブを獲得できたので、さっそくギルドへ冒険者の登録をしにきた。
ヒーラーなら人気の高いジョブだ。クエストでも引く手あまた、冒険者として成功するのも約束されたスタートだ。
そんな話を二人でしながら、ジョブ判定登録の申請をする。
心愛さんにしたら初めての事だけど、何も難しいことはない。魔道具に手をおき数秒待つのみ。そうすればジョブなどの情報などを読み取ってくれるのだ。
心愛さんの番になり判定をしてもらっている。すぐに終わると思ったが、担当の職員さんが謝ってきた。
「あら、ごめんなさい。魔道具が壊れたみたいで、もう一度他のでさせて貰いますね。えっと……あら、また聖女って出たわ、おかしいわねえ」
「いいや、それで合っているよ。本人へのメッセージも聖女だったから、それは壊れていないよ」
「えっ、ま、まさか!」
ギルド職員さんに見つめられ、心愛さんはハニカミながらうなずいている。実に可愛らしく、ほっこりさせられるよ。そんな心愛さんをもっと堪能したいのだが、職員が騒ぎだしそれは叶わなくなってしまった。
「わ、私だけでは手に余りますので、少々おまちを。主任ー大変ですー。聖女降臨がおこりましたーーー!」
今ので周囲にも知れわたり、蜂の巣をつつくような騒ぎになった。ギルド内ではドタバタと、上へ下へと駆けずり回るが混乱をしぱなしだ。ついにはギルマスまでもが出っ張ってきたのだ。
「愛染さま、今度は何をされたのですか。聖女ってジョーダンにも程がありますよ」
「いや、俺は付き添いで来ただけだよ。ジョブが発現したのは心愛さんの方だよ」
「はじめまして、川口心愛です」
「う、美しい……まるで聖女のようだ」
「だから、そう言ってるだろ。ジョブが発現したの、ジョブが!」
指摘をすると、そこでやっとギルマスも判定装置を使ってくる。もちろん聖女と記されるから、ギルマスは腰を抜かしてヘタりこんだ。半信半疑だっただけに、見事な驚きっぷりを見せてくれた。
「まさか本物とは。世界で三例目の奇跡ですぞ! ああああ、はっ、ははーーーー!」
やっと事態をのみ込めたギルマスは、
大の大人にこんな事をされれば、誰だって困ってしまう。心愛さんは頭をあげてとひざまずいた。
「やめてください。私はただの一般人ですから、そんなに
「いえいえ、お手が汚れます。どうかお気になさらずに」
「えっ、血が出ているじゃないですか。大変、ヒール!」
覚えたての呪文をつかうと、傷だけでなく汚れもきれいに落ちた。そこらのヒーラーとは比べ物ならない威力だよ。
一方、ギルマスは受けたその暖かな癒しの光に、夢見心地の表情だ。少し呆けていたが、我に返るとまた恐縮してくる。
「なんてお優しい。この長田、感激いたしました。ははーーーー!」
埒があかないし、土下座の姿勢のままでもいいから話を進めていく。
「ギルマス、遊ぶのもそこら辺にしてよ。とりあえず心愛さんの登録をしたいからさ、頼むよ」
「ぼ、ぼ、ぼ、ぼ、冒険者ですと! 愛染さま、何をぬかしてやがるのですか。聖女さまにそんな危ない事をさせる訳にはいきませんよ!」
「はい?」
「いいですか。聖女は他のヒーラーには出来ない部位欠損の再生が可能なのですよ。しかもその数が少ないのです。もし川口さまの身に何かあったとしたら、取り返しのつかないことになるのです。そこの所をよく考えてみやがれですよ」
「は、はあ?」
すごく熱が入っている。確かに聖女はレアだから、慎重になるのは分かる。でも鍛えなければ強くはならない。何もしないなんて、宝の持ち腐れでしかない。それに冒険者になるのは、本人が望んでいることだ。
「ギルマスさん、私としてもコテツさんと一緒に頑張りたいのです。ダメなんですか?」
「はあ、聖女さまも分かっておられないのですね。……仕方ありません、その身柄をギルドが預からせてもらいます」
「えっ、それって?」
「この本部であなた様を保護するのですよ。怪しげな宗教や他国のスパイと、聖女さまを脅かす危険がはびこるこの世界です。聖女さまに安全かつ安心してお過ごしいただける場所は、ギルド本部をおいて他にありません。我ながら冴えておりますよ」
口調は穏やかだが、目はガンギマリ。狂信者のそれでしかない。何を言っても通じないだろう。
「なので愛染さまには、これ以上の口出しはご無用いただきたい。分かっていただけますね?」
「本人の意向も聞かずに、それは横暴だろ」
「愛染さま、いただけますね?!」
少しでも話そうものなら噛みついてくる。いつものギルマスではない。分かったと答えておくが、それと同時に心愛さんにしか通じない手信号で合図を送っておく。
【どう思う?】
【うーん、敵意はないようですし、信じてみてもいいかもしれませんね】
【強制じゃないから、断ってもいいんだよ?】
【ありがとうございます。でも一生懸命ですし、少しの間なら良いかな】
【そ、そっか。心愛さんがそう言うなら、それを尊重するよ】
【でも、不安はない訳じゃないんですけどね】
【なーに心配いらないよ。ここのセキュリティなら簡単に破れるさ。いざとなったら、ものの数秒で出られるよ】
【コテツさんが言うと安心できますね。私のすべてをコテツさんに預けます】
【お、おう】
意味深なのが返って来た。でも所詮は手信号だから、複雑なのは伝えきれない。考えすぎだと忘れることにする。
【あ、あのう、聖女になりましたが、私ってそれでもまだコテツさんの弟子ですよね?】
すこしためらいがちに聞いてきた。
それについては俺も考えていたことだ。
忍者である俺が、聖女の事で教えれる物など何もない。
悲しいがそれが真実だ。
俺としては楽しい毎日だけど、このままズルズルと続けるのは、心愛さんにとって良くない事だ。
ここはキッパリと区切りをつけるべきだ。それが師匠として最後にできるはなむけだよな。
【あったり前さ。ずーっとずーっと心愛さんの好きなだけ弟子でいなよ。ちゃーんと面倒をみるからね】
【よかったー、ではいってきますね】
【おう】
あっ。
また考えていた事と真逆を言ってしまったよ。
でもこれは当然の結果である。
あんな可愛いアヒル口で訴えかけられては、断る方がどうかしている。そんな人間がいたら絶対に悪の手先だ。人類の敵でしかない。
まあこの件はこれで終わり。気持ちを切り替えよう。
取り敢えず、心愛さんの好きなアイスを買ったくるか。隠行術をつかい連れていかれる部屋を特定しておけば、あとで持っていけるからな。
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