第2話 恋愛と結婚の概念

セレナスリア帝国は恋愛による結婚を推奨している。国王自ら告知しているほどだ。

何代か前の国王は平民の娘と大恋愛の末に結婚したが、まだ貿易が安定していなかった時代。たまたま彼女の父が小さいながらも貿易商会を慎ましくやっていたことに目をつけ、彼が功績を得られるのを手助けし、男爵位を父王に授けさせた。これにより二人は一緒になることができたし、海の、貿易の発展に繋がった。

この堅苦しい恋愛は現国王に至るまでの課題となっていく。

現国王と言えば、大恋愛が人形劇で扱われるほどだ。

彼が幼い頃、先代国王の盟友であり親友であった公爵が騎士団長をしていたが、彼には娘がいた。

公女と言えば淑やかな完璧な淑女を目指すものと思われがちだが彼女は違う。父に憧れて騎士をめざしていたのだ。

初めて紹介された時彼は衝撃を受けた、否、一目惚れをした。自ら訓練所に通い、彼女に会いに行ったという。彼女も彼に満更でもなかったがベクトルが違っていた。

国王になることは分かっていたからか、彼女だけではなく、兵士や訓練兵まで隈なく観察して騎士団長とああでもないこうでもないと話し合う姿に尊敬の眼差しを送っていた。

彼女の瞳には実力を見出されて期待されているように見えたのだろう。彼の剣になるために努力を惜しまなかった。父である騎士団長も目を見張る速さでその実力を遺憾無く発揮していく。ついに、本当に彼の剣として任命されるまでとなった。

彼は決意を騎士団長には話していた。父王も説得していた。彼女は外堀を埋められているとも知らずに鍛錬をつづけていたのだ。

王位を継承するその日まで姫を一人も娶らずにいることを不思議にすら思わなかった彼女は、当日目を見張ることになる。

「我が妃になってほしい」

嵌められたと思ったと、公女としての最低限の教養や次期国王の剣としてと言われ、妃教育だと気が付かないように色々させられていたことが走馬灯の如く思い出されたと後に語る。

嫌ではなかったし、剣としての自分を捨てたくなかったから悩んだ。……だが、全て彼は見越してたのだろうか。王妃と剣を兼任し、帝国最強の剣士となったのだ。

彼女の功績により、陸上の利が確立した。


二人の男女間の恋愛は周りとは違っていたかもしれない。けれど、二人はお互いを尊重し合っていた。……それだけでよかった、お互いが一番であれば。

───しかし、残酷にも二人は引き裂かれることになる。

敵は魔物だけではない、敵国であるアルマニア要塞国との戦いで罠にはまり、王妃は瀕死の重症を負ってしまう。状態で。

何とか一命は取り留めたが問題が残った。

『子どもを産み、剣を捨てる』か、『子どもを諦めて剣を握り続ける』か。どちらにしろ、彼女の残された時間は大して変わらない。『王妃としての役目を果たす』か、『剣として散る』か。それと相違ない。

彼女は限りある命ならばと、剣を捨てて彼に残せるものを選んだ。これが彼女の精一杯の彼への愛。

そして産んで一年の後、息を引き取る───。

産まれたのは『姫』だった。

はヴォルフガング。

後妃を娶らずにいた国王に男児はいない。

ヴォルフガングは故王妃が引き継いだ騎士団長の側近、戦死した副団長が王弟の忘れ形見。

因みに王弟の妃は実家に帰されている。一途な愛を貫くための措置だった。

現国王が告知したのは『政略結婚を控え、恋愛結婚を推奨する』と言ったものだ。

そのため、貴族から自由恋愛からの結婚が浸透して来ている。爵位があることに越したことはないけれど、便宜上のみとしたいと仰せだ。

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