第1話 魅惑の公爵令嬢の想い人
「……ア様、リリノア様! 」
「……え? 」
「もう! 何度も呼んでたのに! 」
「ごめんなさい。どうかなさいまして? ネモフィラ様」
わたくし、リリノア・リナ・ランプソンは親友のネモフィラ・ペニー・パンダリオンに振り向いた。
今わたくしたちは馬車の中にいる。旅行という名の合同合宿。学生は親睦を深めるために時折、このような催しがある。
仲の良い方と二人から四人までご一緒出来る。
「アルバート様とヴォルフ様がご一緒なのですよ? おひとりでボーッとなさっていたら心配になります」
アルバート・ノーティス・フランチェスカ様、ヴォルフガング・ヴァン・セレナスリア様。
二人はニコニコこちらを見ていた。
我がランプソンは公爵家、ネモフィラ様のパンダリオンは男爵家、アルバートのフランチェスカは伯爵家、そしてヴォルフのセレナスリアは言わずと知れた王室だ。
格差はあれどわたくしたちは幼馴染なのである。
「リリィは楽しみで寝られなくて眠いんじゃないの? 」
「ヴォルフ、リリノアがそんな可愛らしいわけがないだろう? 」
「昔からお転婆だからな」
好き勝手言ってくれる。
「……うるさいですわね。わたくしだって物思いに耽けることもありますわ」
「け、喧嘩しないでくださいよぉ」
家名の引け目が抜けないネモフィラ様。
しかしその家名の通り、わたくしが幾度となく誘拐される度に助けに来てくださったベルナールお爺様の孫娘なのだ。わたくしが大切にしないわけがない。
平民で配送社を営んでいた彼を男爵にしたのはわたくしのお爺様で、功績を考えれば当然の褒賞と言える。爵位があればいつでも便宜が測れる、亡くなった後のパンダリオン家を守る最善策だった。
だが、ネモフィラ様はまだ格差をきにしている。わたくしたちにとって爵位とは家の肩書きでしかない。まだ子どもなのだから。
「ネモフィラ様、十四年も一緒にいますのよ? 」
モジモジするネモフィラ様の手を握る。
「二人の悪態なんて可愛らしいものですわ」
「悪態のつもりはないよ」
「心外だなぁ」
「あなた方がわたくしにそんなだからネモフィラ様が困ってしまっているのよ」
「わあああ! わたしは大丈夫ですからあ! 」
わたくしは彼女が引け目を感じている本当の理由を知っている。それは───わたくしたちといないところでいじめに合っているから。萎縮してしまうのも仕方ない。どうにかしなければならないけれど……。
すると、ネモフィラ様がわたくしにそっと耳打ちをした。
「……このままだとヴォルフ様に告白出来ませんよ! 」
「ちょっ! ネモフィラ様、しー! 」
ネモフィラ様は、わたくしが王太子であることを抜きにヴォルフが好きだと唯一知っている。でもヴォルフはネモフィラ様に優しくて、わたくしにはあんなことばかり言うのだ。もしかしたら、ネモフィラ様を思っているのかもしれない。可愛らしくて守りたくなってしまう彼女を───。
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