こちら空輸配送社「ぱんだ」でございます~モテを有効活用?! ~

姫宮未調

プロローグ

……少女が泣いている。

暗い暗い石造りの、清潔感なんて感じられない一室で、鎖に繋がれながら。

「うるせえぞ! クソガキ! 」

「金んなんだろうな? 」

「”ランプソン公爵家”っつったら、貴族ん中の貴族よ? たんと出してくれるさ」

扉一枚隔てた部屋にいかにも柄が悪そうな男が三人。ランプ灯りの中、粗末なリビングセットで寛いでいる。


───ドスン! ガラガラガラ……


「「「?! 」」」

「なんだぁ? 」

「揺れたぞ?! 」

急な衝撃音。ハッとして扉に目をやると衝撃で扉が外れ掛かっていた。

その向こうでは屈強な男が少女の鎖を引きちぎっているところだ。

「テメエ! 何してやがる! 」

「……嬢ちゃん大丈夫か? あんたのじいさんが心配しとるから帰ろうな」

鎖を外し、少女を片手で抱えて振り返る。

「聞いて……!! 」

「悪いが……『一々おまえたちのような輩に支払っていたらキリがない』だとさ」

「おい! 」

「待て! アイツは……! 」

「お? マルコか? 嬢ちゃんは保護した。すぐそちらに行く。ああ、分かっているさ。今から1以内だ」

そう告げた瞬間、屈強な男は開けた穴から消え去った。

ゴロツキたちが駆け寄る頃には目視できる範囲から消えていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はい! 空輸配送社『ぱんだ』です! はい! お預かり、回収から”1分以内”にお届け、配達しておりま……! くそっ! また冷やかしかよ! 」

「センパイ、わたくしに代わってくださればいいのに……」

悪態をつく若い男に困ったような笑顔を向けるハチミツ色の髪をした美少女。

ここはセレナスリア帝国所有のルミナス孤島にある、廃城跡施設の休憩エリア。

空輸配送社『ぱんだ』はこの施設の一室を間借りしている小さな配送会社だ。

配送会社は陸輸・海輸・空輸の3種類があり、今はまさに”空輸”時代だ。

陸海空すべてに魔物がいるが、比較的迅速に安全に運べると言うのが空である。

ただ配送するだけではない。戦闘もこなせる配送が前提である。如何に迅速にこなせるかだ。

だから”1分以内”で出来るなら誰だって頼みたいだろう。だが、近所なら出掛けついでに渡した方がいい世の中。大概の依頼が馬車で何日、何ヶ月とかかる場所だ。誰もが信じていない。無理な話だと。

それに───空輸界隈はエリングス侯爵家がパトロンをしているハンセン空輸商会が粗方独占してしまっている。この孤島にあるもう1つの廃城跡を丸々占領している富豪会社だ。

「あ~あ、お得意様のランプソン公爵様はたまぁに依頼くださるだけなんだよなぁ。ま、一番権力あるって言っても大旦那様おひとりだし。会長が生きてたらなぁ……」

『ぱんだ』の今は亡き会長ルーベンス・パンダリオン男爵は世界最強とまで言われた屈強な男だった。マルコシアス・ランプソン公爵の親友でもあった。……十年ほど前に大きな依頼を受け、仕事は完璧にこなしたものの、大怪我をして引き取った孤児である彼に看取られながら亡くなった。

「十四年前に大旦那様の大事な孫令嬢が誘拐されて、依頼として助けた功績も伝説扱いだしなぁ」

「そう、ですわね……」

美少女は思いに耽けるように天窓から空を見やった。

「あ、センパイ。わたくし明日から学院の旅行なので一週間ほど留守にしますからね」

「へいへい、覚えてるよ。学生さんは頑張ってこい。交流も人生勉強だからな。どうせ暇だしなぁ」

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