僕とアオちゃんのノスタルジー。（モンキーZ50Z）

最終話：ありがとうアオちゃん。

僕の住んでる地域は冬でも雪は滅多に降らない。

でもその朝は、窓の外を見たら真っ白だった。

何十年ぶりかの大雪。

学校なら休校になるんだろうけど、仕事はそうはいかない。

道路もガチガチに凍ってるから、油断できない。

歩いてなんていけないし・・。

通勤に時間がかかっても出勤しなきゃいけない。

とうぜん軽四でってことなんだけどタイヤチェーンなんか用意して

ないから無理。

どうしようか迷った末、足はアオちゃんしかない。

ゆっくり行けば大丈夫じゃないかって思った。

だからしかたなくアオちゃんでトコトコ出勤した。

道半ばまで無事走って、いつものように交差点の信号を右に曲がった

ところで後輪が右側に滑った。

で、そのままアオちゃんごと横倒しになって道路の中央あたりまで滑った。

めっちゃショック。

僕がコケたことじゃなくてアオちゃんをコカしたことが・・・。

その日一日やる気なし。

よく確認したら、大きな傷はなかったけど左の後部ウインカーが折れていた。

乗ってる以上バイクに傷をつけずに乗るはまあ難しい。

乗らずにコレクション状態で保存するのが一番いいんだろうけど、それじゃ

つまんないからね。

それに乗ってやらないと、エンジンは回してやらないと劣化してくだけだから。

それでも僕はアオちゃんと金毘羅さんや岡山の倉敷美観地区 へツーリングに

行ったりした。

原付で長距離をよくもまあ走ったもんだ。

急いだってしょうがない・・・慌てず騒がずがもっとう。

その後もアオちゃんとの楽しい月日は流れ、そして忘れもしない出来事が

ついに起こった。

僕の家は隣近所の家より二メートルくらい低い位置にあって、二階建てで

下が仕事場兼倉庫になっていてその隅っこの一角にアオちゃんを駐車している。

カバー被せての青空駐車なんてもってのほか。

でその年の9月にデカい台風がやってきた。

台風の日はさすがにアオちゃんでは出勤できなかったから軽四で出勤した。

そしたら昼過ぎ仕事場の僕に家から電話がかかってきて

「倉庫が水没してる」って・・・。

社長に行って、すぐに家に帰らせてもらった、そしたらもう帰る途中の

道路まで冠水していて道路の端っこがどこにあるのかわからずノロノロ運転。

ヒヤヒヤもんで家に帰った。

で家に帰った僕は上から家を見てびびった。

倉庫がどっぷり汚水に浸かっていた。

なんでも豪雨による河川の氾濫がおきて土砂が地域を飲み込んだらしい。

本当ならそのための排水用プンプが働くんだけど、その台風の日に限って

故障してたらしい。

いろんなアクシデントが重なって一気に土砂が溢れたってわけ。

体から力が抜けた。

ショックはショックだったけど、信じられない光景に言葉がでなくて

笑いさえこぼれた。

水が引くまで小一時間かかったけど、あとには細かい粒子みたいな砂つぶが残った。

実はこいつがやっかいだった。

いたるところに入り今でこびりついてるからホースをひぱってきて水で流した。

結局、かたずけるのに一週間以上かかった。

だけどうちは倉庫だけの水没で済んだけど隣近所は床上浸水になった家が多かった。

ボランティアの人たちにはずいぶんお世話になった。

それでも結局、粗大ゴミが一気に増えただけで綺麗に元にはもどらなかった。

で一番の問題、心配は、どっぷり水没したアオちゃんのこと。

泥水に浸かったからね。

とうぜんエンジンはかからない。

フロントタイヤもリアタイアも細かい砂をかんでるから回りにくくなってる。

マフラーからも泥水が入ってるだろうから、入った水がオイルと混じって

たぶんドロドロになってるだろうし・・・。

バラして綺麗に油でもって拭き拭きしてやらないと、このまま放置して

おいたらメッキの部分もエンジンも錆びるだろう。

動くようにって言っても、たぶん全部バラしてオーバーホールしなきゃいけない

だろうから素人の僕では修理は無理。

たぶん修理に出しても、そんな面倒くさい作業をしてくるバイクショップなんて

ないだろうし・・・。

結局、僕は泣く泣くアオちゃん復活を諦めた。

二度と動くことのないアオちゃんを最後に

「ありがとう」

って言って綺麗に洗ってやった。

もちろん動かないからって引き取り業者に持って帰ってもらうなんてしない。

たとえ意思表示しなくなっても僕の可愛い彼女。

で、その後、アオちゃんはどうなったかって言うと・・・今は僕の家の玄関の

隅っこに飾られてる。

動かないけど、家に帰ると「お帰り」って迎えてくれる。

一緒に思い出を作ったアオちゃんは今は僕のいい目の保養になってくれている。

触ってるとたまらなく愛しくなる。

おしまい。