第51話 三度目は

 バーベキューの後は散歩をしたり、帰ってきてからお昼寝したりしていると、あっという間に夜になってしまった。


 肉にありつけたのがお昼を随分と過ぎた時間だったこともあり、夕食時になってもお腹の空きが来る気配が無かったため、夜は軽くパンで済ませた。


「お待たせ〜」


 お風呂を済ませたリリアがリビングに戻ってくる。

 先にお風呂に入ったジルは寝巻き姿でソファにじっと座っていた。


「あ、今日は起きてる」

「流石に三回目は、ない」


 ジルがムッとした様子で言う。

 昨日一昨日と寝落ちして、リリアに部屋まで運ばれたことが気恥ずかしかったらしい。


 ジルの隣に腰掛けて、リリアは一息つく。

 湯上がりの体は火照っていて、目を閉じるとそのまま寝入ってしまいそうな心地よさがあった。


(って、いけない、いけない……)


 ぶんぶんと頭を振って目を覚ます。

 ここで寝てしまったら、ジルの二の舞である。


「リリア、眠いの?」

「うん……ちょっと……」


 今日も色々あった。


 髪を切ったり、バーベキューをしたり。

 なんだかんだでたくさん動いて、充実した一日だった。


「じゃあ、もう寝る?」

「そうしよっか」


 ふあ……と欠伸をして、リリアは立ち上がる。

 その後にジルが続いた。


 2階に上がってジルの寝室の前に来た時。

 ぎゅっと拳を握って、リリアはジルに言った。


「安心して、今日はしっかりと自分の部屋で寝るから!」


 昨日と一昨日は、ジルを寝かしつける流れで自分も寝てしまった。

 今日こそは別々で寝るという意気込みがあった。


 まだ小さいとはいえ、ジルは男の子。

 歳の離れた女性と一緒に寝るのは落ち着かないだろう。


 そんなリリアの気遣いに、ジルはぱちぱちと瞬きをした後。

 心なしか、目を伏せて。


「……うん、わかった」


 こくんと力無く頷いてから、自分の寝室のドアを開ける。

 ドアがきいっと、物寂しい音を立てた。


「おやすみ、リリア」

「うん。おやすみ、ジル」


 ぱたんと、ドアが閉じてから、リリアも自分の寝室に入る。


 およそ二日ぶりとなる自分のベッド。

 ジルの部屋にあるベッドとサイズは同じはずなのに、やけに広く感じる。


 それに、妙にひんやりしていた。

 毛布を被ってみるも、一向に温かくならない。


「…………」


 しん、と静寂が舞い降りた寝室。

 ここのところずっと、ジルと一緒だったからか、深い森の中で一人のような物寂しさを感じる。

 

 胸の中で、冷たい風がひゅるひゅると音を立てていた。


「……寝よ」


 風から逃れるように、明かりを落とす為にベッドから降りた時。


 がちゃり……と、ドアが開いた。

 見ると、入り口でジルが枕を持って立っている。


「ジル、どうしたの?」


 そばに歩み寄って尋ねると、ジルはおずおずと口を開いて。


「あの、リリア……一緒に、寝てくれないかな?」


 ぽつりと、言葉で空気を震わせた。


「一人は……なんか、やだ……」

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