第50話 何をしている人なの?
4,5人分はあった肉たちは、リリアとジルの食欲によってみるみるうちに姿を消していった。
炭火も少しずつ弱まってきて、バーベキューもお開きの雰囲気になる。
立っているのも疲れたので、残りの肉はお皿に取り分けて、家の中で食べることになった。
「ずっと気になっていたんだけど」
残りの肉を食べている途中、ジルがぽつりと尋ねた。
「リリアって、何をしている人なの?」
「むぐっ……」
突然そんな質問が飛んでくるとは思っていなかったので、リリアは喉に肉を詰まらせそうになってしまう。
「だ、大丈夫!? ほら、リリア、お水」
「あ、ありがとう、ジル君……」
水を喉に流し込んで一息ついてから、逆にリリアは尋ねる。
「えっと……特に何もしていないかな?」
「ふうん……」
神妙な顔つきのジル。
「どうしてそんな質問を?」
「だって……」
ジルは逡巡するように視線を彷徨わせた後。
「気になったんだ。僕とそう歳の違わないリリアが、こんな家に一人で住んでて、働いてる感じもない。なのに、僕を2億で買ったり、何百万もするような服を買ったり……」
そう歳の違わない。
という部分に一瞬、引っ掛かりを覚えたものの、質問の主題の方に意識がいった。
(どうしよう……)
と、リリアは天井を仰ぐ。
ジルの質問の意図を辿るのは容易い。
パルケの中心地にある一軒家でお金を気にせず一人暮らしをする、無職の10代の女性。
どう考えても一般人じゃない。
一体何者?
とジルが思うのは当然だ。
むしろこのタイミングまで聞かれなかった方がおかしいくらいだ。
きっと、ジルなりに聞くか聞くまいか悩んだ末のタイミングだったのだろう。
「えーっとね……その……」
どう返答するか、迷った。
隣国の伯爵家の出身で、家族の策略で処刑されたら時間が戻っていた。
それから未来の知識を使って宝くじで100億マニーを当てた後、パルケに逃亡したのち悠々自適な生活を送っている……なんて、本当のことを話すわけにもいけない。
信じてもらえないだろうし、頭のおかしな人に買われてしまったと、ジルを怯えさせてしまうだろう。
しかし、だからといって嘘をつくのは嫌だった。
超大金持ちの両親がいて、社会勉強がてら住まわせてもらってる……みたいな、口から出まかせの嘘を話すのは胸が締まるくらい気が引けたし、その設定で通せる自信もなかった。
目を伏せ、気まずそうにリリアは口を開く。
「色々あったの、色々……」
「色々……」
「うん。本当に、色々……」
申し訳ない気持ちになりつつも、結局はそう言うしかなかった。
今の時点でジルも納得できる説明は、リリアには無かった。
そんなリリアの返答に、ジルは不服そうにすることなく、何かを察したような表情をして。
「僕と、同じだね」
ほんのりと笑って言う。
薄く濁ったブルーの双眸の奥に、仄かな影がちらついていた。
ジルがどのような経緯で奴隷になったのかも、リリアは知らない。
(ジル君は、今までどんな……)
そのまま言葉にしそうになるのを、喉奥に押し込む。
なんとなく、まだ聞くタイミングじゃないと思ったから。
「ごめんね、ジル君。ちょっと事情が複雑で、今は説明が難しいんだけど……いつか、話せる時が来たら、ちゃんと話すから」
「……うん」
こくりと、ジルは頷いた。
リリアはくすり笑って、お皿をジルの方に押してやる。
残りは全部食べて、というリリアの意図は伝わったらしく。
「え、でも……これ、最後の一個……」
「いいのいいの。もう私、お腹いっぱいだから」
「じゃあ……いただきます」
最後の一個の肉まで美味しそうに食べるジルを、リリアは温かく見守る。
(お互いに、まだまだ知らないことだらけだけど……焦る必要はないよね)
時間もお金もたくさんある。
今はただ、この穏やかな日常をゆったり過ごそう。
そう思うリリアであった。
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