第46話 目にわかる変化
「おい、見ろよ……」
「うおっ、すげー美人。どこの令嬢だ?」
「おい、声かけてみろよ」
「馬鹿! 流石に分が悪いわ!」
理容院を出て街を歩いている時、ふとそんな言葉が聞こえてきてリリアは思った。
(流石都会……凄い美人さんがそこらじゅうに歩いているのね……)
まさか自分にかけられている言葉とは夢にも思わない。
髪型を変えるだけで印象は激変するという法則は、伸ばしっぱで野暮ったい長髪だったリリアにもばっちり当てはまっていた
理容師で髪型を整えたリリアは、10人いれば9人が振り向くほどの美人に変貌を遂げていた。
しかし当の本人は自分の容姿に対する自信が地に落ちている。
そのため、自分の容姿が周りから見て高い評価を得ているという自覚は皆無に近かった。
一方でジルは、リリアに熱い視線を注ぐ男たちの存在を察知していた。
「リリア、僕から離れないで」
「ど、どうしたの、ジル君?」
手をいつもより強く繋いで、威嚇するように辺りを見回すジルであった。
(それにしても……)
一緒に歩くジルをリリアはチラリと見遣る。
改めて見ても、ジルは息を呑むような美少年に変貌を遂げていた。
一流のスタイリストたちによってふわりと柔らかそうな髪型になったジルの、精悍さの中にあどけなさを残した顔立ちはもはや芸術のよう。
(成人したら、凄まじいプレイボーイになりそう……)
なんだか心配になるリリアであった。
そんなリリアの感想は正しいようで、ジルにも道ゆくマダムから熱の籠った視線が向けられている。
「ねえ見て、あの子……」
「まあっ、将来有望ね……」
「いいわねえ、私があと二回りくらい若かったら、ちょうどの年齢でしたのに」
髪をバッサリ切って整えたお陰で、街のマダムから人気の美少年となったジル。
しかし、当の本人はリリアを不埒な輩から守るべく必死のため気づいていない。
何はともあれ、二人がパルケで評判の美姉弟となるのは、そう遠くない未来かもしれない。
そう思わせるほど、散髪によって二人は大きな変貌を遂げていた。
「お昼は何食べたい?」
そろそろ腹の虫が雄叫びをあげそうな気配がしたので、リリアがジルに尋ねる。
「リリアは、何か食べたいものないの?」
「ジル君が食べたいものを食べたいかな」
「……じゃあ、お肉」
「さ、流石男の子ね……」
昨日、たくさん肉を頬張っていたジルを思い出してリリアは言う。
奴隷生活の中であまり食べさせてもらえなかった故に、身体が栄養価の高い肉を求めているのだろう。
そうリリアは推測した。
「だめなら、魚でも……」
「ううん、お肉食べにいきましょ! 私も、ステーキとかを食べたい気分だわ」
リリアもリリアで、パルケに来てから身体が肉料理を欲するようになっていた。
成長期に摂取できなかった肉を取り戻そうとしているのかもしれない。
その甲斐あってか、(まだまだ大分痩せているものの)実家にいた時より少しずつ肉付きが良くなってきている。
標準くらいになるまでは、とにかくたくさん肉を食べようとリリアは決めていた。
「あ、そうだ……」
ふと、リリアは思いついて言った。
「お昼は、お店じゃなくて家で食べてもいい? ちょっとやってみたいことがあるの」
リリアの提案にジルは不思議な顔をしつつも、こくりと頷いた。
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