第28話 寂しい

「熱い……しんどい……目が回る……」


 翌日。

 リリアは寝室でひとり、毛布に包まってうんうん唸っていた。


 頬は赤く、目は虚。

 浅い息を何度も繰り返していた。


 昨晩、熱っぽいなと思いすぐに就寝した。

 朝起ると、熱はさらに上がっていて倦怠感も酷かった。

 

 これは只事ではないとなんとか気合いで病院に行って、例のお医者さんに診断して貰ったところ、季節性の風邪ということだった。


(ドレス一枚でテラス出て風に当たってたし、最近不摂生だったし……思い当たる節はあるわね……)


 そうリリアは思った。

 また大幅に環境が変わって、身体に大きな負担がかかったのかもしれない。


 とりあえず点滴を打って貰って、薬草を調合した薬を貰った。


 とにかく安静にして、胃に負担のかからないものを食べて過ごすと良いと言われたので、帰りに野菜と塩だけ買って帰宅。


 実家では家事を強制され、掃除や洗濯は毎日のようにしていたが、唯一料理だけはさせてもらえなかった。


 汚れた平民の血が入っているという理由で、食材に手を触れることをナタリーが許さなかったのだ。


 そんな経緯もあってリリアの料理の腕前は素人同然なのだが、病人とはいえ何かしら口に入れなければならない。


 重い体に鞭打って、リリアはクッタクタ野菜の薄味スープを作り上げた。


 名前の通り、キャベツやにんじんなどの野菜はぐにょぐにょしているし、味は薄いしでお世辞にも美味しくはないのだが、胃に負担がかからず栄養が取れればそれで良かった。


 後は寝るだけだと、布団に入ったのだが。


「しん……どい……」


 苦しそうにリリアは呟く。


 体調を崩すのは久しぶりだった。

 その度に辛い思いをしていたのを覚えている。


 薄っぺらいタオルのような布団で硬いベッドで療養させられていた実家にいた頃よりもマシではあったが、しんどいものはしんどい。


 それに……。


「寂しい……」


 ぽつりと、呟く。


 しんと静まり返った家。

 カーテンは閉められていて薄暗い。


 単身で暮らすには広い家で、ひとりぼっち。

 体調を崩しているのも相まって、胸が凍るような心細さが到来している。


 昨日、レストランに行った時に感じた何百倍もの孤独感がリリアの心を蝕んでいた。


 ──誰かに、そばにいてほしい。


 心からそう思った。


「まあ、無理……よね」


 いくらお金があっても、好きな物が買えたとしても、今一番欲しい物が手に入らない。

 

 なんとも皮肉的な状況に、リリアは自嘲めいた笑みを溢す。

 

 心に広がる極寒から逃れるように、リリアは再び眠りについた。


◇◇◇


 翌日には熱は下がった。

 念の為もう一日安静にしたら、倦怠感も消えてなくなった。

  

「良かった……」


 ベッドに腰掛けて、リリアは安堵の息を漏らす。

 病み上がりということでまだ少しふらついているが、体調は平常時に戻っていた。


 ぐうううう〜〜……。


 安心したら、お腹がいつもの合図を奏でた。


「わかった、わかったからっ」


 頬を赤くし、リリアはお腹を押さえる。

 この二日間、クタクタ野菜の薄味スープしか入れていない胃袋は、すっかり空っぽだ。


「もう、普通に食べて大丈夫よね……」


 そう判断し、リリアはベッドから降りた。

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