第27話 またまた向いてないかも……
テラスから店内に戻った後の事は、お酒が回っていたのとドタバタしていたのもありあまり記憶がない。
何人ものウェイターに深々と頭を下げられ、謝罪とドレスのクリーニング代を渡された事は覚えている。
プラスで飲み物代も無料と言われて流石に払いますと返したが、ウェイターの圧に押され、ありがたく5万マニーきっかりの支払いとなった。
レストランから帰ってくるなり、リリアはバスルームに直行した。
飲酒後に湯船に浸かるのは良くないと知識にあったためサッと湯を浴びる程度に済ました。
寝巻きに着替えた後、酔いでふらつく身体に鞭打ってなんとかベッドにたどり着く。
「疲、れた……」
ポツリと、リリアは呟いた。
初めての高級レストランだったが、これもあまり性に合ってないように感じた。
味は確かに美味しいと感じたが、量が少なく、空気もどこかピリッとしていて落ち着かない。
少なくとも、普段行っているボリューム重視の大衆店の方が満足度が高いと感じた。
「あと多分……絶対に一人で行くようなお店じゃないわよね……」
おそらく、誰かのお祝い事とか、デートとかで行くのが本来の用途なのだろう。
間違っても女一人でふらっと入るお店ではなかった事は確かである。
なんにせよ自分にはまだ、ああいうお店は早い事はわかった。
それだけでも収穫だろう。
「それにしても、かっこいい方だったな……」
ふと、あのテラスで出会った男のことを思い出す。
飲み過ぎでグロッキーだったにも関わらず、息が止まるような美丈夫だった。
思い返すと、初対面の男性の喉に手を突っ込んで吐かせるというなかなかのことをした気がするが、結果的に楽になったようで良かった。
買ったばかりのドレスとブレスレッドは男の吐瀉物で汚れてしまい、クリーニングに出さなくてはいけなくなった。
しかし不思議とリリアの心は晴れやかだった。
少しでも人の役に立てて良かったという気持ちで満たされていた。
「私もいつか、あんな素敵な人と出会って……ここここここここここここ恋とかしちゃったりして……」
お酒が回っているからか、普段なら絶対に考えないようなことを考えてしまっている。
パタパタと、リリアは足を動かした。
恋愛なんて、マニルにいた頃の自分の立場では絶対に許されなかった。
だが、今の自分はパルケアの一市民でしかない。
身分格差はあるものの、望めば恋だって出来るのだ。
「……なんて、ね」
リリアは自嘲めいた笑みを溢す。
16年間否定され続けたリリアは、自分に対する自信は皆無に近い。
(私が誰かに好かれるなんて……あり得ないわ……)
心の底から、そう思っていた。
少しだけ酔いが覚めた、その時。
ぎゅるるるる〜〜……。
「ああっ……また……」
誰かいるわけでもないのに恥ずかしくなって、思わずお腹を抑える。
明日食べる予定だった、こもれびベーカリーのクロワッサンでも齧ろうかと立ち上がった、その時。
「あ、れ……?」
ふらりと、身体が軸を失ったみたいにぐらつく。
視界がぼやけて、ピントが合わなくなる。
気がつくと、リリアは再びベッドに倒れ込んでいた。
「飲みすぎ……? ううん、これは……」
嫌な予感がして、リリアは自分の額に手を当てる。
掌に、じんわりと熱い温度。
明らかに平温ではなかった。
自覚した途端に寒気も覚えて、リリアは思わずぶるりと肩を震わせた。
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