第23話 向いてないかも…
「うん、わからない!」
帰宅後。
大きめのハンガーにかけられた、庶民的な家の内装とは不釣り合いのドレスを前にして、リリアは声を張った。
せっかくお金があるからと高価なブレスレットとドレスを買ったものの、いまいち良さがピンと来ていない。
もちろん、ブルーパーズのブレスレットも、深い赤色の豪華なドレスも、お店で選んでいるときはそれなりに楽しかった。
購入したときは『こんな高価な物を私が……』と胸がドキドキした。
しかし冷静になって考えると、高価なアクセサリーやドレスを買ったという高揚感よりも『こんなに高いの……?』という損失感の方が大きかった。
89億マニーの中の数百万マニーなんてたかが知れているにも関わらず、支払ったことを盛大に後悔してしまった。
帰りに立ち寄ったこもれびベーカリーでクロワッサンやクリームパンを買った時の方がテンションを上げる自分に気づいた。
ブランド物を買うという趣味を否定するわけではない。
自分がそうだったというだけで、これはもはや何に対して価値を置くのかという価値観の問題だろう。
その証拠に、長い間住む住居には便利で快適な方が良いだろうとかなりの額のお金を支払ったが、そこに対する損失感はほとんどない。
本当に良い買い物をしたと、後悔は少しも無かった。
「実家では、食べ物と住むところは悲惨だったしね……」
だからこそ反対に、ブランド物に興味が湧かないのだろう。
「私は……いいかな」
何回か購入していれば慣れるのかもしれないが、慣れる必要もないし、ハマったら莫大なお金が飛んでいくことになる。
まだ87億マニー以上残っているとはいえ、お金は使っているといつか消えてしまう。
それも、ブランド物の価格は天井知らずだ。
実家でマリンやナタリーが数百万、数千万のブランド物をポンポン購入していた。
そのせいで家の財政が傾くのを間近で見てきた身としては、想像するだけで冷や汗が出る。
「私がブランド物が性に合わないってことがわかっただけでも、良しとしよう……」
こうやって色々試してみるのは良い行動だと思った。
自分は何が好きで、何が嫌いで、何をすると楽しいのか。
今までわからなかった自分という人間を解明していくことは、まだ先の長い人生を豊かに過ごす上で大事だと思った。
そのための時間も、お金も、たくさんあるのだから。
ぐううううう〜……。
「私のお腹、いつも盛大に鳴るわね……」
羞恥で思わず笑みが溢れる。
ちょっぴり頬がいちご色になった。
日常的にたくさんのご飯を食べられるようになったからか、空腹になるとすぐに合図をしてくれるようになった。
とりあえず、こもれびベーカリーで買った山盛りのパンを食べようかと立ち上がり……ぴたりと止まる。
そして逡巡したあと、豪華なドレスを見上げてリリアは言った。
「せっかく買ったんだし……」
パンは明日食べようと、リリアは決めた。
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