第13話 陽も沈んで
「お金の力って、凄いのね……」
役所を出た後。
大通りを歩きつつ、ガラスケースに包まれた国民カードを見ながらリリアは呟いた。
リリアに10億マニーの支払い能力があるとわかるや否や話はとんとん拍子に進み、無事フラニア共和国での永住権を獲得することができた。
これで、リリアは晴れてフラニア共和国の一員となったのだ。
ちなみに……10億マニーを支払った後、職員の他に何人か別の課の人間が手揉みしながらやってきて、慈善団体への寄付や政府への資金委託やら色々提案してきたが、話が長くなりそうなので丁重にお断りしておいた。
リリアの次のやるべきことは……先ほど支払った10億マニーを引いて残った、89億9000万マニーを銀行に預けることであった。
職員に教えてもらった銀行は市役所から程近い場所に本店が構えられていた。
新規口座開設の窓口で貰いたての国民カードを見せると、ここもすんなりと話が進んだ。
新たに口座を開設し、89億9000万マニーの証書を提出する。
その際、一瞬係員の目が丸くなったがそれだけだった。
裕福で富裕層の多いこの国では、億単位で資産を持っている者も珍しくないのだろう。
こうして無事、リリアはお金を預けることに成功した。
証書が盗られないように気をつけねばと気を張る必要が無くなったのだった。
◇◇◇
銀行から出てきた時点ですっかり陽が沈んでいた。
もう身体もヘトヘトだったので、今日は活動を終えることにする。
「つか、れた……」
昨晩泊まったホテルの一室。
大きなベッドにリリアは倒れ込んだ。
「永住権は貰えたし、銀行にお金を預けた。とりあえず、順調ね……」
一つ一つこなしたことを呟きながら、リリアはため息をつく。
ひとまず今日やるべきは終わった。
住居のことは明日、どこかの不動産屋さんに入ろうと決めた。
「それにしても……」
ふと、国民カードをポケットから出して、天井にかざして眺める。
昨日死に戻ってすぐに逃亡を決意し、大金を得てフラニアにやってきた。
そして今日、晴れてフラニア国民となった。
あの地獄のような日々から解放された上に、普通に暮らしていたら使い切れないほどのお金もある。
そう考えると、身体の芯から嬉しさが溢れてきた。
「うふふ……ふふふふっ……」
ごろごろごろ!
喜びを主張するようにベッドの上を転がって、勢いそのまま床に落下した。
「わぶっ……」
ぐうう〜〜……。
床に落ちた衝撃で、お腹が空腹を主張し始めた。
部屋には自分しかいないのに、羞恥で頬が赤くなる。
「そろそろ、夕食の時間ね……」
昼はパン二つしか食べていなかったし、お腹が減るのも無理はない。
実家では餓死ギリギリのタイミングで貧相なご飯が出されていたが、今はそうではない。
リリアは起き上がる。
高層階の窓からは、パルケの繁華街の街並みが見えた。
「しっかりとご飯を食べなさいって、お医者さんにも、エルシーさんにも言われたしね……」
ただでさえ栄養失調気味なのだ。
食事を抜いたらまた病院に担ぎ込まれてしまう。
まだたくさん現金が入ったショルダーバッグに30万マニーを残して、リリアは部屋を出た。
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