第10話 失踪

「白洲さんが、居ないんです。部屋にこんな遺書のようなものが!」

そういって、オーナーが持ってきたのが一枚の手紙だった。

そこにはこのように書かれていた。

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みなさん、お騒がせして申し訳ございません。

今回の手塚さんと本庄さんを殺害したのは私です。


私は癌に侵されております。余命半年と医師からも宣告されました。

命の期限が見えたことで過去の自分を振り返る時間を持つことができ、そして心残りになっていることがあることに気づきました。

私には昔、娘がおりました。でもその娘がまだ小さい頃、妻と別れ娘はその妻に引き取られていったのです。

先日、杉咲にその娘が結婚すること、そしてその娘がこの六花荘に宿泊することを聞きました。

私は一目、娘の顔を見たいとの想いから、この旅行を計画することにしたのです。


この六花荘に到着した時、私は見てしまいました。

娘が、本庄さんに脅されているところを。そして手塚さんにも。

だから、私は手塚さんと本庄さんを殺しました。


私はこの森の中で永い眠りにつきます。皆さん、お世話になりました。

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これがその手紙の中身だ。これは遺書だ。

「森の中?もしかして森に入っていったんでしょうか?

昨夜も吹雪くまではいかなかったですが少し雪は降ってます。こんな日に森に入って迷子にでもなったら、凍死してしまいます。」

オーナーの杉咲が泣きそうな顔で言った。

「白洲さんは、もう本当に体力が少なくなっておられました。お医者様にも本当はこの旅行はやめたほうがいいといわれておられたのに。

娘さんに会いたいばっかりに。」

「娘さんって、香川美月さんの事ですね。」

「はい、美月さんは白洲さんの別れた娘さんなんです。

私は、もともと白洲さんの元で働いておりました。美月さんのお母さん。白洲さんの別れた奥様とも面識がございます。白洲さんには色々大変お世話になっておりましたので、陰ながら美月さんの事は見守らせてもらっておりました。

この度、ご結婚が決まったとのことでしたので、そのことを白洲さんにご報告したんです。たまたま私の所に美月さんが宿泊されることになったので、ご報告申し上げたら、ぜひとも私も宿泊したいと仰られて。


こんな事になるのなら、ご報告しなければよかったと。今更公開しても遅いですが。」


「杉咲さん。そうだったんですね。父の…。知らなかった。じゃぁ、以前ワークショップで話しかけていただいたのも偶然ではなかったんですね。」

香川美月が蒼白な顔色でそう言った。

「はい、あの時は本当に声をかけるつもりはなかったのですが、美月さんがお美しく成長されてる姿をぜひ白洲さんに写真だけでもお見せできればと思ってお声をかけてしまったんです。黙っていてすいませんでした。」

「父は、父を探さなければ。この雪の中では凍死してしまう。」

香川美月が今にも飛び出していきそうな勢いで服を着ている。

それを杉咲の妻が止めた。

「美月さん。私たちはここで待っていましょう。

土地勘のない女性が行くと足手まといになります。ここは、男性に任せましょう」

すると、紫音が言った。

「美月さん。私たちが行きます。あなたは山荘で待っていてください。必ず見つけますから。」


僕たち三人とオーナーの杉咲で捜索をすることになった。

「土地勘がないと迷ったりして危ないので、四人一緒に行動しましょう。

落雪には十分注意してください。それから、もしはぐれたら動かないでください。必ず迎えに行きますから。」

杉咲からスノーシューズを借りて僕たちは捜索にでた。

玄関から出るとうっすらではあったが足跡が残っていた。

この足跡を追っていけば白洲の所までたどり着けそうだ。昨夜出たとすればもしかするともう間に合わないかもしれないと思いながら、その足跡をたどっていった。


「みなさんには黙っておりましたが、実は3つのグループを引き寄せたのは私のような気がしております。」

歩きながら杉咲が告白を始めた。

「美月さんとは、数か月前にあるワークショップで初めてお話をさせてもらいました。白洲さんが癌の告知をされたころです。

美月さんのお姿を一目でもお見せできればと思い、迷惑になるかもしれないと思いながらも声をかけたのです。親子の名乗りを上げなくてもせめて顔を見せてあげられたらと。

そして、宇田君もじつは前々から存じておりました。宇田君は実は施設の出身でして苦労して今の大学に入学しています。

彼は、美月さんと同じ小学校の幼馴染なんですよ。

ただ、お母様の再婚の際、転校をしたのでそれ以降は連絡をとれてなかったと思いますが。」

紫音が聞いた。

「そうなんですね。宇田さんと香川さんはお知り合いだった…。

じゃぁ、この旅行はお二人が計画されてって事なんですか?」

「それはわかりません。でも最初、美月さんから今回の宿泊の予約が入って、私から白洲さんに連絡をしたんです。その数日後に宇田さんから予約が入ったんですよ。」

雪の中をしゃべりながら歩いていたので、杉咲の息も上がってきていた。

足跡をたどって、1時間ぐらい歩いただろうか?

大きな木の根元で、木にもたれるように人が横たわっていた。

「白洲さん!!」

杉咲が白洲に走り寄って、白洲の体を揺さぶった。

「白洲さん。なんでこんな事を。どうして。」


「紫音、とりあえず外傷はないようだ。低体温を起こしているようだけど、まだ息はある。意識はないが、まだ生きている。とにかく山荘に運ぼう。」

岸くんがそういうと、

「わかった。とにかく白洲さんを運ぼう。」

といって紫音が軽々と背負い歩き出した。


六花荘に戻った僕たちに、雪さんが言った。

「除雪作業がめどが立って救助もこちらに向かっているそうです。

電話もつながったので警察にも連絡しました。少しまだ時間かかるかもしれませんが、警察もこちらに向かっているようです。」

「それはよかった。これで下山ができる。」岸くんが言った。

「とにかく白洲さんを暖かい部屋へ運んでください。手当てをお願いします。」五十嵐が白洲さんを紫音から引き継いで、部屋に運んだ。






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