第9話 2人目の遺体

「俺が、今夜決行する。君にはもう。」

「何を言うの?ここまで来て、私だってあの人には嫌な思いをしてきた。それに、もう私の人生なんてどうなってもいいのよ。

あなたと一緒に私もやるわ。」

「わかった、じゃぁ。これを飲んだら決行しよう。」

「やっとわかってくれたのね。じゃぁ、乾杯。」

グラスを合わせて二人は琥珀の飲み物を飲み干した。

しばらくすると、女性のほうの体の力が抜けてぐったりとし出した。

「…飲み物に…なにか混ぜ…た…」

最後のほうは何を言っているのかわからないぐらいの声だった。

男性は女性を見下ろして、

「君は、幸せになるべきなんだよ。ごめんね。大丈夫、体には影響のない薬だから。今までありがとう。」

そう言い残して部屋を出て行った。


その一部始終を見ていた人影がいた。その人影は何も言わず立ち去った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌朝、僕たちはまた食堂に集まった。

すると、三条二葉が僕らの所に来て、不安そうに言った。

「えみりが今朝から姿を見せないの。

昨晩、私が寝るときに部屋をノックして声を掛けたら、部屋の中から返事がしたのよ。だから、安心して昨夜は寝たんだけど、今朝ノックしても返事がなくて、何かあったんじゃないかと思って不安になってきてしまって。一緒に見に行ってもらえないかしら。」

「まだ寝ているとか?」

と聞いてみたが、もうすでに時間は8時過ぎだ。

「あの子、普段からすごく早起きの子なの。いつも5時ごろには起きているはずよ。」


三条と一緒に本庄の部屋へ行くと、香川美月がドアをノックしながら本庄を読んでいる。

「えみりさん、起きてるなら返事して。ここ開けてよ。大丈夫なの?」

「どう?」三条が香川に聞いた。

「ダメ。全然物音すらしないの。まさか…。」

岸くんが、オーナーから借りてきたマスターキーを取り出し、言った。

「開けてみますから、変わってもらえますか?

本庄さん、岸です。お返事ないようなので安全確認のためにドア開けさせてもらいますよ。いいですね。」

そういって、ドアを開け僕らは部屋に入った。

「あ、お二人は見ないほうがいい!!」

紫音が三条と香川に言った。僕たちが目にしたものは、床に横たわって目をかっと見開いて息絶えた本庄えみりの姿だった。

天井のフックにはロープがかかっている。その下には丸椅子が倒れて転がっている。

岸くんが急いで脈を診た。僕らのほうを向いて、首を横に振って

「死んでる。首を絞められているようだけど。まさか、自殺?」


「いやぁぁぁぁぁーーーーーー!!」

三条が叫びそのまま泣き崩れた。その声に食堂にいた全員が部屋まで上がってきた。

部屋の中を見て、

「なんで!!こんな事が起きるんだよ。ねぇ、警察はまだなのかよ。」

五十嵐がオーナーに詰め寄っている。

「五十嵐さん、落ち着いて。とにかく部屋から出てください。

何も触らないように。皆さんはいったん食堂へ移動してください。」

岸くんがみんなを食堂にいるように説得している間、僕と紫音は部屋の中を調べた。

「部屋が荒らされている形跡はないし、鍵も壊されてないね。

自殺…のようにも見えるけど。遺体は床の上だった。自殺して息絶えた後ロープが外れて床に転がった?そんなことあるかな?

それに、ここの部屋の鍵が見当たらないよ。このペンションの鍵って結構大きいから、ポケットとかに入れててもわかると思うけど、遺体のポケットとかにはなさそうだし。」

紫音が独り言のように言った。

僕はポーチに出てみた。まだ少し雪が残っているが、昨日はそんなに降らなかったので少し雪も融けていて、ポーチの床は残っていた泥と解けた水でびちゃびちゃだった。

ふと、下を見ると何かきらりと光るものが見えた。

「ん?あれなんだろ?…もしかして。」

僕は慌てて外に出てみた。

雪の中から出てきたのは、部屋の鍵とアイスピックだった。

「迅、どうした?何か見つかったのか?」

紫音が本庄の部屋のポーチから僕に言った。

「部屋の鍵とアイスピックだ。でも、なぜこんなところに?」


凶器はこのアイスピックだったのか?なぜカギと一緒に落ちているのだろうか?そもそもいつからここに?あの脅迫状の意味は?

わからないことが余計に出てきた。


僕が部屋に戻ると岸くんと紫音が話をしている。

「本庄えみりは、手塚を殺してそれを苦に自殺した。

この状況を見る限りそんな推理が思いつくよね。」

「岸くん。ちょっとそれは安直すぎないかな。まだ、手塚の部屋の密室もわからないし、それに脅迫状が本庄にも届いていたということも、不可解だよ。」

「いや、俺だって本庄が自殺だとは思えない。こう見えても刑事のはしくれだ。この索状痕が首つりかそれとも後ろから誰かに絞められたのかぐらいは見分けがつく。

でも、どうしてこんな中途半端な隠ぺい工作のような真似をしているのか気になるよね。」

そんな話を三人でしていると、オーナーの杉咲が部屋に入ってきた。

「大変です。白洲さんが、居なくなってます。部屋を見たらこんなものが…」






 

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