第8話 脅迫状
僕たちが食堂にもう一度戻った時、食堂は騒然としていた。
「誰なの!こんな事…誰よ!こんな脅迫状を私の所に置いたのは誰!?」
本庄えみりが半狂乱で叫んでる。
他の者たちは憐れみを含んだまなざしで見ている。
「どうしたんですか?」
岸くんが、本庄えみりに聞いた。
「私の部屋にこんな脅迫状が届いたのよ!!」
「脅迫状!?それを見せてください。」
紫音が本庄からその手紙を受け取ってみると
『お前たちは報いを受けろ。
次はお前だ。』
手塚の時と同じように新聞の切り抜き文字の脅迫状だった。
「いつこれを見つけたんですか?」
紫音が聞いた。
「さっき、部屋に戻った時よ。朝にはなかったと思うから、今朝起きて私が朝食に降りてからだと思う。部屋のカギは閉めてあったのに、だれか部屋に勝手に入って置いたのよ。どうしよう。私、狙われてるの?」
「本庄さん、心当たりがあるんですか?」紫音が聞いた。
「そんなものないわよ!!あるわけないじゃない!!あったとしたって、そんなの手塚が悪いのよ。私のせいじゃないわ!!」
やっぱり、手塚と別れた原因が今回の事件のカギなのか。
「私のせいじゃない?どういう事でしょう?」
「し、知らないわよ。とにかくどうにかしなさいよ!!あんたたち警察なんでしょ?どうにかしてよ。」
文面も切り抜き文字も手塚の時と同じだ。
本庄えみりと手塚。きっとなにかこの殺人の動機となる事件があったのだろう。でも、それは本庄えみりは喋ろうとしない。
いったい何があったというのか?
「えみりさん。何かあるからこんな脅迫状が来てるんじゃないの?何があったのか話したほうが身を守ってもらいやすいんじゃないの?」
香川美月が本庄えみりに言った。
「そ、そんなやましいことなんて、何もないわよ。
…いいわ、誰も守ってくれなさそうだから、自分の身は自分で守る。
私、部屋にこもるわ。部屋に鍵をかけて、出てこないから。」
本庄えみりはそういって、自分の部屋へ上がっていった。
「香川さん。本庄さんと手塚さんとの間に何があったのかご存じなんじゃないですか?」
唐突に紫音が聞いた。
「え?そんなこと…知るわけないじゃない。なんでそんなことを聞くの?」
「いえ、香川さん、本庄さんに割としつこく手塚さんとのことを聞いているから、何かご存じなんじゃないかと思っただけですよ。」
「…。えみりさんがあんまりにも怖がっているから、怪しいと思っただけよ。私は何も知らないわよ。」
そういうと、香川美月が食堂から出て行った。
「あの少しいいですか?」
僕たちに話しかけてきたのは少し前に食堂に戻ってきた五十嵐だった。
「ちょっとお話したいことがあるんです。さっき、言おうかどうしようか迷っていたんですが、俺あの二人が別れるきっかけを知っているかもしれません。」
五十嵐は少しひそめた声で僕たちに話し出した。
「一年半前ぐらいなんですが、手塚が乗り出しの新車を俺にすごく自慢してたんですよ。ドイツ製の高級外車だったな。でも、その半年後ぐらいには違う車になってて。元の車は廃車にしたって。飽きたから乗り換えたって言ってましたが、あれはきっと事故をしたんじゃないかって俺は思ってるんです。
俺、スクラップ工場に知り合いがいて、その廃車にした車がその工場にきたって聞いて。なんかまずい事故でも起こしたんじゃないかと思ってるんですけど。」
「で、それが本庄さんと何か関係でも?」僕が聞いた。
「ちょうど、車を乗り換えた頃なんですよ。本庄さんと別れたの。
ていうか、今回ここに本庄さんと手塚が揃ったっていうのも、なんか偶然じゃない気がしてきて。この旅行の計画を立てたのは俺なんですけどね。宿の手配とかその他もろもろは宇田が手配かけてましたが。」
「そうですか。話してくれてありがとうございます。」
もし、五十嵐の言う通り本庄と手塚が分かれた理由が、その車で起こした事故が原因で、その事故が今回の事件の動機となっているとしたら、これは怨恨による殺人事件で、過去の事故での被害者かまたはその家族が引き起こしている事件だということになる。
でも、その事故の被害者が誰なのか、またはその家族がこの山荘にいるのか、通信が途絶えている今の状況では調べる術がない。
ただ、五十嵐の話でこの殺人事件が少し動いたことは確かだった。
それを僕らが知るにはまだ少し時間が必要だった。
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