第6話 桜ちゃんの告白
僕と紫音が泊まっている部屋が事情聴取をする場所に指定した。
岸くんが主導で事情を聴いていくことになり、まず、第一発見者である五十嵐に来てもらった。
「五十嵐さん。まず遺体を発見した時のことをもう一度詳しく聞かせてもらってもいいですか。」
五十嵐はめんどくさそうにため息をついてから、
「さっき話した通りですよ。手塚を起こしに行たんですけど、ノックをしても返事もないし鍵がかかっていたから、オーナーにマスターキーを出してもらって開けてもらいました。」
あくまで岸くんは事務的に聞いていく方針らしい。
「その時まず何が目につきましたか?」
「そうですね、まず窓が開いていました。めっちゃ冷気が入ってきていて寒くて。でも誰もいなくておかしいなって思ったんですよね。とりあえず窓を閉めようとしたら、下に人の様なものが見えてよく見ると手塚だったんですよ。」
「手塚が死んでる!とおっしゃいましたよね。なぜ死んでると?」
「そりゃぁ、雪の中で仰向けになって倒れてるんです。しかも胸には血が出てるし。それに、積雪もあるからそんなに距離があるわけじゃないし。見ればわかるでしょ。」
「その時、杉咲さんはどうされてたんですか?」
「俺の横にいました。俺と同じように驚いてましたけど。」
「その後は?」
「俺、手塚が死んでる!って叫んで、そしたらみんなが上がってきたんです。その後は、みんなと一緒に食堂にいましたけど。」
「部屋にいるときに誰かほかの人の気配がしたとかはないですか?」
「それはないですね。そもそも他の人はみんな食堂にいたでしょ。」
五十嵐がいぶかしそうに聞いてきた。
「では、昨晩はどうされてましたか?」
「アリバイってことですか?昨日は俺、しこたま飲んでたんですよ。時間まではあんまり覚えてないですけど、あ、宇田が覚えてるかも。あいつはあまり飲まないのに、俺に付き合ってたから。
そうね、割と遅くまで飲んで気が付いたら朝自分の部屋のベッドで寝てました。」
今回のこの事件に関してはあまりアリバイは重要ではない。
ほとんどの宿泊客がアリバイはないだろう。
「わかりました。ところで、手塚さんとは仲がいいんですね?」
「あぁ、まぁ同じ大学でサークルも同じって感じですかね。」
「でも雪山登山なんて、仲良くないと行かないと思いますけど。」
「そうですかね…まぁ、お互い思うことはあると思いますよ。
宇田なんかは手塚に金を借りてて、割と小間使いみたいな事させられてましたし。」
「ほおーそうなんですね。」
「いや、宇田も可哀そうなんですよ。あいつ施設出身だし、学費なんかも自分でバイトして稼いでるし。だから金に困ってて手塚に金借りたんですね。でも手塚に借りたのが悪かったんですよ。あいつ金にはどうしようもないぐらい汚くて。脅迫めいたこともされてたんじゃないかな。だから宇田は手塚の事恨んでたと思いますよ。」
なるほどね。仲良さそうにしてても、うわべだけってことね。
それにしても、雪山登山なんて命かけなきゃいけないこともあるだろうに、仲悪いのに命を預けたりできるんだろうか?
五十嵐の事情聴取が終わり、五十嵐が退室した時ドアの向こうに桜ちゃんの姿がみえた。
「桜ちゃん、どうしたの?今、ここには来ないほうがいいんだけどな。」僕が声を掛けたら、
「ママがみなさんに飲み物をもっていってって。」3本のペットボトルのコーヒーを差し出した。
これはきっと、オーナーからの差し入れではなく、桜ちゃんがここに来るための口実として持ってきたんだろうなと察した僕は、
「ありがとう、ちょうどのど渇いていたから助かるよ。
でも、桜ちゃん。僕たちに何か話したいことがあるんじゃないの?」
と聞いた。
「うん、お兄ちゃんたちに言ったほうがいいかなと思うことがあって、聞いてくれる?」
その時、下の階から次の事情聴取のため宇田が上がってくるのが見えた。
「よし、話を聞くけどちょっと待てて。中の2人にこの飲み物を持っていくから。」
僕は2人に飲み物を渡し、中座することを告げた。
「よし、桜ちゃん。お話を聞こうか。」
「うん、あのね。今朝の事なんだけど、パパとお風呂掃除をしてる時に、お風呂の洗面台の所で氷の塊を見つけたの。たぶん、つららじゃないかな。ほとんど融けてたんだけど、少し塊みたいに残ってて。
で、その近くに赤い染みみたいなものもあったの。その時は何かで汚れたのかなと思って掃除しちゃったんだけど、今朝あの大学生が殺されたって聞いて、もしかしてと思って。」
「もしかしてって?」
「赤い染みは血の跡だったんじゃないかなって。
ほら、推理小説とかでつららで人を殺したりする話あるでしょ?最近その話を読んだの。もしかしたら、あのつららで大学生殺されてんじゃないかなって。
あと、もしかしたらパパがあの大学生を殺したんじゃないかなって、不安で。」
最後のほうの言葉は、不安な気持ちがあふれたのか聞き取れるか取れないかぐらいの小さな声だった。
「なんでそう思うの?」
「だって、昨日の昼間パパとあの大学生が口げんかしてるの見ちゃったんだもん。」
そういうと、桜ちゃんは堪えてた涙を浮かべて、僕の目をまっすぐに見た。きっと、今まで不安で不安でしょうがなかったんじゃないかと思ったら、抱きしめてしまいたくなった。
「そっか。桜ちゃん、話してくれてありがとう。きっとパパじゃないと思うよ。でも、きちんと調べないとね。
桜ちゃんはこの事をパパにお話ししたの?」
「してない。」首をぶんぶん振っている。。
「そう、もしパパにお話ししないと桜ちゃんが辛くなっちゃいそうなら、お話したほうがいいかな。その時は僕も一緒にお話ししてあげるよ。
でもね、僕たち三人以外の他の人たちには絶対に言わないほうがいいよ。」
「お兄ちゃん、うん、ありがとう」
「それと、あんまり一人で居ないほうがいいかもしれない。
そうだ、これから食堂に行って、僕とカードゲームでもしよう。しばらくは、パパやママか僕らかと一緒にいるほうがいいよ。」
事情聴取は紫音と岸くんに任せて大丈夫だろう。
それより僕は食堂でのみんなの様子が気になる。事情聴取の話はあとで二人から聞くことにしよう。
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