第5話 密室

僕たちは改めて手塚の部屋を調べることにした。

2階の南側の部屋を一人で使っていたようだ。部屋のつくりはどの部屋も同じようなつくりなのだろう。

僕たちが泊っている部屋と同じような内装になっている。


まず、部屋に入ると左手にユニットバスの設備があり、正面にテレビ、テーブル、ソファーが置かれている。

ソファーの後ろにはシングルベットが一つ置かれている。

こちらの部屋は南向きになっているので、掃き出し窓が大きくとられており、窓からポーチに出ることができる。

僕と紫音の部屋は手塚の部屋の真正面になり、北面に面しているためポーチはなく腰窓のつくりになっていた。


ただ、手塚の部屋は争ったからなのか、ナイトテーブルに備えてある椅子は倒れており、手塚の荷物であろうスーツケースの中身も散乱している。

そしてさっきは気づかなかったが、床には血痕がところどころ落ちている。

殺害現場は2階のこの手塚の部屋で間違いはないだろう。

ベッドの影になってさっきは見えなかったが、血だまりもあった。


「うーん。でもさーなんか引っかかるんだよな。」

紫音がどうも納得いかないという顔で言った。

「なにが?」僕が聞くと

「うーん。何で引っかかっているのかわかんないんだけど、なんか引っかかるんだよね。違和感ってやつ?もやもやするわ。」

「推理小説だとそのもやもやが解決のカギになったりするんだよね。」

僕がしたり顔でそういうと、

「現実は小説みたいに複雑じゃないよ。これは現実の事件なんだから。」

と岸くんにたしなめられてしまった。


「それより、凶器が見つからないな。やはり犯人が持っているのか、それともどこかで処分しているのか。」

岸くんがあちこち探しながら呟いた。

「凶器は、アイスピックのような物って言ったよね。」

「うん、先のとがった形状のもので刺されてる。刃物で刺されると傷口が細長くなるんだけど、手塚さんの傷口は円形の形をしていたからね。」

僕はさすがにそこまで遺体を見ることはできなかった。

さすが、岸くんは捜査一課の刑事だ。

「なるほどね。」


「岸くん、迅。この部屋はとりあえずこれ以上の情報はなさそうだね。」

紫音がそういうと、岸くんも

「そうだな。じゃ、食堂に集まってるみんなにそれぞれ話を聞いてみよう。」といった。


僕たちが食堂に行くと、オーナーの杉咲と本庄えみりが揉めていた。

「私、こんな殺人があったようなところにいるなんて耐えられないわ。すぐに下山させて!!」

「今のこの状況では下山するのは無理です。除雪されていない山道を降りるのは危険ですし、電話も通じない状況で救助も呼べませんし。」

「ヘリコプターとか要請したらいいじゃない!!」

「この山の上じゃ、ヘリを要請したところで余計危険なんですよ。気流も不安定ですし。それに、電話が使えないこの状況では何の救助も呼べませんよ。」

杉咲はほとほと困り果てた顔で僕たちに救いを求めてきた。

「本庄さん、お気持ちはわかりますが、今はここにいるほうが安全なんですよ。」

紫音が諭すように言った。

「でも、この中の誰かが彼を殺したんでしょ?殺人犯がいるような所に安心していられるわけがないじゃない。」

「えみりさん、不安なのはよくわかるけど、でもこの雪の中を下山するほうがよほど危険だわ。私たちもいるんだし少し落ち着きましょう。」

香川美月が本庄えみりをなだめだ。香川美月のほうが年下に思うが、どうやら本庄より冷静な判断ができるようだ。

「美月。あなたは怖くないの?」

「怖いわよ。でも、この大雪の中で下山するのは無理じゃない。」

「そうよ、えみり。私だって怖いけど、でも3人一緒にいれば大丈夫よ。それに、刑事さんもいらっしゃるんだし。」

もう一人の三条二葉も、本庄を落ち着かせた。


どうやら、食堂にみんな集まっているらしい。それを確認した岸くんが、大きな声でみんなに言った。

「では、みなさん。この後、それぞれにお話を伺おうと思います。特に昨晩の事について。あと、被害者との関係なんかも。順番にお呼びしますので、2階の206号室に来てください。」

すると、

「岸さん。その前に、そろそろお昼の時間でもあるので、昼食を用意しようと思います。お食事されてからということでもいいんじゃないでしょうか。」

オーナーの杉咲がそういった。

確かに、もう12時を回っている。時間がたつのが早い。

僕たちもお腹がすいていることに今更ながらに気が付いた。

「そうですね。では、昼食を済ませてから始めましょう。」

岸くんが、多分一番お腹がすいているはずだ。



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