第4話 雪中の人
「手塚がしんでる!!」
五十嵐の声で食堂にいたほとんどが2階に上がった。真っ先に食堂を飛び出したのは宇田だった。
僕たちも手塚の部屋へ行った。
「みなさん、とりあえず何も触らないように。」
岸くんが後ろから叫んだ。
「僕は警察です。いいですね。部屋の物は触らないように!!」
部屋は、争った跡なんだろうか、椅子が倒れてテーブルの上にあったであろうペンなどは床に散乱している。そして、ベッドもシーツなんかはぐちゃぐちゃになっている。寝込みを襲われ、抵抗したのか。
しかし、手塚の遺体はこの部屋にはない。
「五十嵐さん、手塚さんは?死んでるって言いましたよね、ご遺体は?」
岸くんが五十嵐に聞いた。
「ポーチから外を見てください。下に手塚の死体があるんです。
おれ、部屋に入って窓が開いていたから、寒いし閉めようと思ったら下に手塚がいて。びっくりして、よく見たら死んでて…。」
「わかりました。とりあえずみなさんは食堂にいてください。紫音、迅、一緒に来てくれ。ご遺体を確認したい。」
「わかった。」僕と紫音がこたえた。
「あ、あと杉咲さん。警察に通報をお願いします。」
「かしこまりました。」
僕ら三人は表に出てご遺体を確認しに行った。
まず、岸くんが遺体に近づいた。
「胸を鋭利なもので刺されている。凶器は先のとがったアイスピックのような物かな。心臓一突きってところだろう。
ポケットには、部屋のカギと、ん?これなんだろ?」
岸くんがポケットから出したのは、小さな紙片だった。
開けてみると
『お前たちは罪を償え、報いを受けろ』
と新聞の切り抜き文字で書かれてある。
「これ、脅迫状?」
と僕が聞くと
「そうみたいだね。」と岸くんが答えた。
「お前たちって、複数形だね。」
「うん、もしかしてまだ被害者出るとか?」
「そんな、まさか!」
すると、辺りをうろうろしていた紫音が
「岸くん、雪に足跡ってついてなかったね。」
「ついてなかったね。2階からとった写真があるから確認してみるよ。」
と、岸くんがスマホを取り出して確認すると、確かに雪の上には足跡は見当たらない。それを見た紫音が言った。
「雪上に足跡がない。遺体にもあまり雪がかかっている様子はない、このことから考えられるのは?岸刑事、どう考えますか?」
「なんだよ、いきなり。紫音、お前はわかるのかよ。」
岸くんはいきなり謎解きを振られて慌てている。
「じゃ、迅は?」
「そうだな。雪がやんでから殺害されたであろう事。そして、殺害現場はここじゃなく、2階の手塚さんの部屋ではないかという仮説が立てられる。」
「その通り。しかも、手塚さんのポケットには部屋の鍵が入っていた。じゃ、犯人はどうやって部屋を出たんだ?」
紫音が顎に手を当ててわからないという顔をしている。
すると、岸くんが言った。
「マスターキーがあるじゃないか。ってことは犯人はオーナーの杉咲さんってこと?まさか!」
「まぁ、何にしても、結論を出すのは早すぎるね。とりあえず、オーナーにマスターキーの夜間の保管状況などを確認しよう。それとご遺体の保管場所を決めないと。このまま放置するわけにもいかないからね。この気温なら腐敗は心配ないけど、動物の餌食になってしまいかねない。」
と言って紫音はすたすたと行ってしまった。
食堂に戻った僕らを、困惑気味のオーナーが出迎えた。
「すいません。警察に連絡しようとしたんですが、電話が通じないんです。ここは携帯の電波も入らないですし、外への連絡方法が電話のみで。
たぶん、雪の影響だと思うんですが。」
「電話がつながらない?今朝は役場とお電話されてるんですよね。」
岸くんがオーナーに詰め寄った。
「えぇ、今朝は繋がったんですが、たぶん雪の重みで電話線がどこかで切れてしまっているんだと思うんです。この時期はよくあって。」
「あぁ、そんな。」
岸くんが絶望的な声を上げた。
「あぁ、大丈夫ですよ。どのみち通報したところで警察がこちらに来られるようになるのは除雪が終わってからです。
それより、ご遺体を保管する場所が必要なんですが、どこかないですか?」
と紫音が聞いた。
「あぁ、それなら、隣のガレージで保管できると思います。気温も上がりませんし。」
「じゃ、そこに移動しましょう。」
「あと、杉咲さん。マスターキーってどう保管されてるんですか?」
「マスターキーですか?
受付の所にキーボックスがあるんです。そこで全室の鍵の保管をしてます。」
「じゃ、誰でも取り出せることができる?」
「いえ、それは無理です。あ、キーボックスお見せしましょう。」
受付のところまで杉咲さんに案内してもらった。
「お恥ずかしい話、以前はただ鍵をかけるだけの簡単なキーボックスだったんですけど、数年前に盗難事件がありまして。その時の犯人が受付にマスターキーがあることに気づいてそれを悪用されたことがあったんですよ。で、簡単には取り出せないようなキーボックスに取り換えたんです。」
確かに、この受付には異質に思えるぐらいの頑丈そうなキーボックスだった。
「このキーボックスはパスワードがないと開かないようになってます。このパスワードを知っているのは私たち夫婦だけです。
しかも、箱を開閉した時、鍵が持ち出されたり戻されたりした時、すべて時刻等が記録されているんです。」
前職でこんなセキュリティなどを開発していた僕は感心した。
「へぇ、すごいシステムですね。では、昨晩の記録とかも見れるんですか?」
「あ、はい、ちょっと待ってくださいね。このタブレットで見ることができるんですけど。えっと、昨日はあなた方のお部屋のカギを取り出して、今朝先程、マスターキーを取り出すまでこの箱は開けていませんね。ほら。」
オーナーが見せてくれたタブレットには確かに昨晩僕たちが到着してから今朝までの時間は、箱を開閉した記録はなかった。
では、犯人は手塚を殺した後、どうやって部屋から出たのだろうか。
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