第3話  大雪の朝

次の朝、僕たちは朝食をとるために食堂に降りて行った。

「おはようございます。」

食堂に入ると、昨夜泊まった宿泊客のほとんどが揃っている様子だった。

「あ、おはようございます。朝食をご用意しますね。

コーヒーと紅茶、どちらになさいますか?」

「あ、三人ともコーヒーでお願いします。」


雪さんが僕たちの朝食を用意してくれている間に、昨日の夕食時に声をかけてきた男性が話しかけてきた。

「おはようございます。僕、五十嵐 和也といいます。東京で医大生やってます。僕ら同じ大学の山岳サークルでして、雪山登山してて昨日ここについたんですよ。」

「おれ、宇田 健っす。もう一人いるんすけど、まだ起きてきてないのかな?」

たしか、昨晩は3人で食事していたグループだ。

昨日話しかけてきた五十嵐は体格が良く、ラガーマンのような雰囲気だ。

人懐っこい笑顔で話しかけてくる。

もう一人の宇田という男は、細マッチョってところか。こちらは、人見知りするタイプのようだ。

「で、あっちの女性3人グループは都内の商社に勤めるOLさんだそうですよ。そういえば、手塚とあのちょっときれい目のきつい感じの…なんっつたっけ?」

「本庄さん?」

「そうそう、本庄さん!なんか手塚と昔付き合ってたらしいよ。なんか、こんなところで再会するなんて、運命感じちゃわない?」

「ちょっと、あんまりべらべら話してたら、彼女らに怒られますよ。」

五十嵐という男が、ニヤニヤ笑っている。

どうやら、この五十嵐という男はグループの中でもムードメーカーなのだろう。社交的ではあるが、少し押しの強い余計なことを言うタイプの人物のようだ。


「ちょっと、あんまりべらべら人の個人情報喋らないでほしいわ。

私たちの事はほっといてよ。」

その本庄という女性が向うの席からこちらを睨んできた。

「おおーこわっ。」

「ほら、五十嵐さんが余計なこと言うからですよ。」

五十嵐は大げさに肩をすくめた。


「みなさん、ちょっとお知らせがあります。」

オーナーの透さんが深刻な表情で入ってきた。

「先程、役場より連絡がありまして、雪が深くて除雪作業が滞っているようでして、除雪が終わるまでに2.3日かかるとの連絡がありました。

食料や飲料などに関しては十分な備蓄もありますのでご安心いただいても大丈夫なのですが、下山が数日はできません。水道や電気はきちんと稼働してますので、こちらで数日の間お泊りいただくことになります。」

「そんな、何とかならないの?」

本庄という名の女性が透さんに突っかかった。

「こればっかりは何とも…ここまで積もってしまっては重機でないと除雪は難しいですし。」

「仕方ないでしょう、オーナーさんを責めたところで何も状況は変わらない。」

一人で朝食をとっていた40代後半の男性が落ち着いた声で言うと、本庄さんもしぶしぶ黙った。


「私、白洲 秀夫といいます。都内で会社役員をしております。皆さんとしばらくご一緒することになりそうですので、よろしくお願いします。」

その白洲という男性は、落ち着いた雰囲気があり、地味ではあるが質のいいコーディネートで、品の良さがにじみ出ている感じの紳士だ。

「この際、みなさんも自己紹介されてはいかがですか?」

そう白洲が提案したので、女性陣もこちらに来て、自己紹介をした。


「私たちは都内で同じ会社で働いてる、登山好きのOLです。

もうすぐ私が結婚をして寿退社になるので、3人で最後に雪山登山をしてたんです。私が香川美月。こちらが、三条二葉さん。で、さっきから話題に上がっていたのが、本庄えみりさん。よろしくお願いします。」

女性陣からの自己紹介を受け、僕たちも簡単に自己紹介をした。


「そういえば、手塚がまだだね。起こしてくるよ。」

五十嵐がそういって、食堂を出て行った。

しばらくして、戻ってきた五十嵐が

「手塚が、何回ノックしても起きないんだよ。あいつぐっすり眠っているのかな。透さん、合鍵貸してもらっていいですか?」

「あ、はい。私も行きましょう。」

透さんと五十嵐がその手塚という男の部屋に行ってしばらくすると、


「大変だ!!手塚が!死んでいる!!」

と、五十嵐の叫ぶ声が聞こえた。


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