第6話


 「別れたのかよ。ま、妥当だよな。いつまでもウジウジせずに、あんな美人と付き合えたっていう称号を胸に生きていけよ」。バカにするように鼻で笑った倉木が、俺の肩を叩く。

 騒がしい教室内で俺は机にうつ伏せになり、返事もできないまま黙り込んだ。

 俺たちが別れたという噂は、たちまち学校内に広まった。つり合ってなかったし妥当だろうなと頷く者もいれば、次は俺のチャンスだと希望を持つものもいる。

 俺は内心、お前らに望みはないよと吐き捨てるしか無かった。

 不意に、女生徒のきゃらきゃらと笑う声が聞こえる。顔を上げ、視線を教室の後ろへ向けた。そこには白川とその友人たちが愉快げに談笑している。

 あの微笑んだ笑顔を一生向けられないのだなと理解し、もう一度顔を俯かせた。

 俺には白川りんが分からない。きっとこの教室にいる誰にも理解できないのだろう。

 解き明かすものがいるとすればそれは────。そこまで考え、教室に入ってきた先生へ視線を投げる。騒いでいた生徒たちは一斉に席へ腰を掛け、まるで先程の騒がしさはどこへ消えたのかと言うほど静かになる。

 右方向の斜め前に座った白川へ視線を投げた。ピンとした背筋に、艶やかな黒髪。顔を見なくても美しいとわかるその佇まいを眺めながら、俺は誰にも聞こえないようにため息を漏らした。



【完】

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[百合]白川りんが分からない 中頭 @nkatm_nkgm

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