第14話 港区のバー
名古屋市の港区で見つけた その店は熱田にある直美の家からも近かった。こじんまりとした洒落たバーで鯛のカルパッチョ がなかなか美味かった。僕たちは最近この店を使うことが多くなってきた。本当は ビールかジンのロックを飲みたかったが直美を連れて車で帰るのでそういうわけにはいかなかった。鯛のカルパッチョをウーロン茶で頂いて、あまり遅くない時間に 直美を送っていこうと思った。若い娘を毎晩のように 午前様で返すのはさすがに苦しくなってきた。直美は明日も朝から仕事なんだから なるべく普通の時間に返すようにしよう。それにしても直美は我慢強いんだなぁ。11時過ぎに直美の家に行って2〜3時間 お茶して車の中で抱いて帰る という ただそれだけだったんだけど直美はいつでも文句を言わなかった。いつでも嬉しそうに 俺を迎えてくれる。俺もそんな直美が好きだった。若くて可愛くて 何の文句もなかった。だが慣れというのは恐ろしい。それが当たり前みたいになってしまった。ウィークデーの こんな時間に来ても直美は必ず 会ってくれる。それが当たり前のようになってしまった。直美 だって いろいろしたいことやしなければならないことがあるだろうに会ってくれるのが当たり前になってしまった。今日はちょっと忙しいからとか用事があるからとか 言われたことがなかった。10時頃に仕事が終わったら車を飛ばしてなおみの家の近くに来る。そして 2〜3時間一緒にいて 結局 車の中で抱く。この繰り返し だった。そして 週末にも一緒にどこかへ出かける。結局 1週間ずっと俺と一緒にいる それが当たり前だった。
これは普通のことではなかった。異常なことだった。だけど僕は これを普通のことだと思っていた。こんなことがいつまでも続くはずはなかった。もう36になる俺と直美はまだ高校を卒業したばかりだ。同じように付き合えるはずがなかった。そして、その時が訪れた。ポケベルを打っても電話をしても返事がなかった。直美は明らかに僕と距離を開けようとしている。
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