第3話 科学的検証
戸惑う私を促して、北嶋先生は私を再びその広場へと向かわせた。と言っても自分がさっさと足早に歩いて、私がイヤイヤ後を追いかける感じ。
でもあの先生が怖がる様子を見てみたい気もするし、逆に先生までもが怖がるようなモノだったら、私はこの世の果てに来た気がするだろうとそんな予感がしていた。何だか、絶対の正義のヒーローが負ける場面をこの目で見るような。
あっという間に私達は広場に近付いた。私の足は止まった。これ以上は進めない。北嶋先生は平気で広場の隅の固まりに近付いていく。
だめだ。先生を止めないと。先生がやられちゃうから。
その時、先生はしばらく屈んでいたかと思うと、何かを拾い上げ、抱えていた。
「物音の正体が分かりましたよ」
「え……?」
先生の抱えていたものは、小さなカフェオレ色の子猫だった。弱々しい声でミウミウと泣いている。先生の腕の中は心地良いようで、くるんとその中で丸まっている。
「でも、じゃ、手は?」
「この子猫が押し上げていたんでしょう。ほら……」
箱の中には日本人形が入っていた。桃の節句の時に、お雛様とは別にケースに入って売られてあるような感じの。
「きっとこの子猫は、親からはぐれて迷子になって、ここで暖をとっていたんですよ。この着物の裾に入り込んでいましたから」
そう言って、子猫の頭を人差し指で撫でている。子猫は真ん丸な眼、その中に星が映し出されてそうな眼を閉じた。
「で、でも、じゃあこの人形が動いて木箱から出てきたわけじゃなかった?」
「もちろん。でも不法投棄なので、そこの市民センターに明日にでも伝えましょう」
「……ましょう」
私は、力が抜け、先生の語尾を繰り返すだけだった。
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