第64話 うっかり、テロリスト共を制圧してしまった
オズワルドはズボンのベルトをかちゃかちゃと外しながら、いやらしい笑いを浮かべてやって来る。
「思ったより早く大人しくなったじゃないか」
そう言いながらオズワルドは部屋に入る。持っていた短銃を部下に化けたセオドアに預ける。テーブルにぐったりとしたクローディアが寝ている。すべてを諦めきったような表情が見て取れた。
「おいおい、お前ら何をしたんだ。あの強気のご令嬢が死んだようにおとなしいじゃないか。俺はもっと抵抗して暴れてもらった方が好みなのだがな」
オズワルドがそう言ってクローディアに圧し掛かろうとした瞬間にクローディアが起き上がった。手にした短剣を瞬時にオズワルドの首筋にあてた。
「お前の好みどおりにするのは心外だがな」
「お、お前……なんで……」
オズワルドは動けない。動けば間違いなくこの女は首筋を切断しに来ると思ったのだ。それほどの憎しみと殺気を感じる。
「クロア様、こいつをここで殺してはいけません。背後の組織についてしゃべってもらわないといけませんよ。それに素敵なお召し物が血で汚れます」
セオドアは背後から先ほどオズワルドから預かった短銃を突き付けて、そうクローディアに言った。そうしないとこの令嬢、本当にテロリストを殺してしまいそうな勢いなのだ。
「き、貴様、いつの間に!」
オズワルドは部下の一人がいつのまにか入れ替わっていたことにようやく気付いた。部屋を見回すと2人の部下が既に縛り上げられている。ごていねいに口には猿ぐつわ。目隠しまでされている。とても学生のすることではない。
「こいつも縛り上げておきましょう」
セオドアは用意していたロープで、オズワルドの両手を後ろ手で縛り、両足も縛る。そして猿ぐつわに目隠しをして部屋に転がした。その手際はクローデヒアも目を見張るものであった。
「それでは会場を制圧します。クロア様、いきますよ!」
セオドアはクローディアに合図した。ドアを勢いよく開ける。
会場にいた4人のテロリストたちは予想外の展開に驚いた。ボスが部屋に入り、令嬢の悲鳴でも上がるかと思った矢先、武装した令嬢と見知らぬ青年が飛び出てきたのだ。
1人のテロリストは銃を構える間もなく、セオドアの放った銃弾に腕を撃ち抜かれて床に転がった。床に倒れたところで男子学生たちに取り押さえられる。
クローディアは短剣をもって近くにいたテロリストに切りかかる。このテロリストも動けない。武器をもった右腕を切られて武器を落とす。
残り2人は慌てて銃を構えた。その1人は人質にした王太子を立たせ、こめかみに銃を向けて叫んだ。
「お前ら、武器を捨てろ。王太子がどうなるか!」
「やめろ、撃たないでくれ」
恐怖で我を忘れ情けない声を出すエルトリンゲン。もうプライドはズタズタである。
「あいつらが武器を捨てれば撃たない。早く命令しろ!」
そうテロリストはエルトリンゲンを脅す。一人はセオドアとクローディアの両方を交互に銃を向けている。
「クローディア、武器を捨てろ。隣の男にもそう命じろ」
エルトリンゲンはそうクローディアに命令した。先ほど、残酷な宣言をしたとは思えない言葉である。しかし、そんな命令にクローディアが従うわけがない。むしろ、状況の判断ができないのかと呆れた顔をした。
「殿下、大丈夫です。こいつらはここで射殺します。我の腕を信じてください」
「し、信じられるか~。お前の腕は知っている。狩りで一度も当てたことはないじゃないか!」
「あら、そうでしたっけ?」
クローディアは銃をエルトリンゲンに銃を突き付けている男に狙いを定めた。迷いのないその構えにテロリストは恐怖する。
「やめろ、撃つな。本当に王太子の命はないぞ」
テロリストはそう脅す。しかし、クローディアは微動だにしない。こういう緊迫した状況下においては、心理的に相手を圧倒する方が有利になる。
「あなた、もし、王太子殿下を殺してみなさい。あなたはきっと、この世で一番恐ろしく残酷な方法で処刑されるでしょうね。簡単には死ねないわよ。生きたまま、その身を少しずつ切り刻まれていくのよ」
クローディアの言い方は恐怖感を誘う。特に絶世の美少女が顔に似合わず、そのようなことを口にすると余計に怖い。血に飢えた悪女のようである。
「そ、そんな……。俺はボスに言われだだけで……」
自分の運命を知って男はぶるぶると震え出した。しかし、それも続かない。どこからか銃弾が飛来し、男の頭を撃ち抜いたのだ。
「ぐぼ!」
男はエルトリンゲン王太子に危害を加えることができず、クローディアの言葉によれば、楽に死ねたこととなる。
銃弾は建物の向かいにある塔から狙い撃ったエリカヴィータによるものである。エリカヴィータはさらにセオドアと対峙していた男も射殺した。
ホールで犯行に及んだテロリストは、3人がセオドアによって捕らえられ、2人がエリカヴィータによって射殺。2人がクローディアとセオドアの攻撃で負傷して学生に捕らえられたのであった。
自分を人質に取っていた男が射殺され、返り血を浴びたエルトリンゲン王太子は気絶し、そのまま王宮へと運ばれた。学内にいた他の蜘蛛のメンバーは、警備隊により捕らえられたのであった。
後に『蜘蛛狩り事件』と呼ばれたこの人質立てこもり事件は、こうして終結した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます