第7話 俺はお前のものじゃない
佐伯に5万円を払うことを決めた俺だったが、高2の俺に5万円を好きにできる権限はない。3000円ですら捻出が厳しい状況だったんだ。親の金を抜くか、後は自分で稼ぐしかない。
俺は思いきってバイトを探すことにした。だけど、どうせアルバイトなんて後で親にバレる。バレたときの面倒くささを考えれば、先に申請するしかないと思った。俺はまだ少し話の通じそうな父親から話を通すことにした。
「はあ!? バイトがしたい!?」
やっぱりそうだ。
「お前如きが何に金が必要なんだ!?」
「それは、参考書とか、付き合いとか……」
「友達なんかいるのか?」
「そりゃ、少しはいるし……」
「まさか女じゃないだろうな?」
「男だよ、一応」
「一応って何だ!?」
面倒くさい。誰が誰とつるもうが勝手じゃないか。俺はお前のものじゃない。
「参考書なら現物と領収書を見せれば金はやる。小遣いなら渡してるだろう?」
「でも月に4000円じゃないか。俺だって高2なんだ、もう少し」
「もう少し、何なの!?」
うるさいのがやってきた。あんたに話してるんじゃない、話に入ってくるな。
「ゆうちゃんはママの言うことに何か不満があるの!? お料理だって頑張ってるのに、ゆうちゃんの好きなものしか作らないでしょう!? お洋服だって買ってあげてるでしょう!? それの何が不満なの!? それがママに対する態度なの!? だから中学受験に失敗したのよ、出来損ないのママのせいよ! ママが全部悪いのよ! 高校生からバイトなんて、そんな貧乏な家の子に育てた覚えはないのよ!! ゆうちゃんに必要なものをあげられなかった、ママのせいなんだからね!!」
なんだこいつは。俺がバイトしたいって言っただけでなんでここまでバカになるんだかわからない。こうなると後が面倒くさい。
「わかっただろう、無理だ、諦めろ」
過呼吸を起こし始めた母親を前に、俺は「ごめんなさい、もうしません」を言うしかなかった。こいつの中で、俺はずっと小学生の「ゆうちゃん」だった。
『母親が蒸発したんだ』
ふと、佐伯が羨ましくなった。この面倒くさい女も煙かなんかみたいにいなくなればいいのにって、俺は嫌なことを思ってしまった。このまま佐伯が嫌いになればいいのに、と思ったけど俺はまた佐伯に会いたくてたまらなくなった。
何とか金が工面出来てから予約を入れると、佐伯は普段通りへらへらしていた。そして「俺しっかり洗って待ってたんだぜ?」と茶化しながらいつも通り抜いてくれた。「またよろしくな」という佐伯はそれ以上何も言わなかった。
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