第3話 飯行かない?
それから俺が風邪を引いたり学年末テストがあったりで、なんとなく佐伯のところへ通うことがなかった。ようやく学年が上がって、俺は久しぶりに佐伯に予約を入れた。
「久しぶりじゃん、溜まってるんじゃね?」
「じゃあ全部出してくれよ」
相変わらず佐伯の手つきも舌遣いも素晴らしい。と言っても、俺は自分と佐伯以外を知らない。店に並ぶそれ専用のグッズを眺めたこともあったが、母親に見つかったら何を言われるかわからない。証拠の残らない佐伯だけが俺の慰めだった。
いつものように後始末が終わった後、俺は思い切って佐伯に声を掛けてみた。
「この後用事はあるのか?」
「ない。バイトだけ」
「じゃあその後。バイトは何時に終わるんだ?」
「……8時だけど」
「じゃあさ、その後飯行かない? 奢るから」
俺は意を決して佐伯に告げる。佐伯はにやっと笑うと、親指を立てる。
「いいぜ、アフターって奴だな」
俺はファミレスを指定して、そこで待っていると告げると、佐伯は鞄を手にバイト先へ向かった。商売の後なら、少しくらい佐伯を独占してもいいだろう。誰も使ってないものを少しくらい長く使ったって、構わないはずだ。
「そう言えば、何のバイトしてるのか聞きそびれたな」
俺は佐伯のいなくなった神社の境内で、佐伯のように座り込んだ。
「……何て言おうかな」
スマホの画面を取り出して、俺はため息をつく。佐伯に声をかけるより、これからスマホで母親にメッセージを送る方に勇気が必要だった。おそらく、何を言っても怒るだろう。怒るだけならまだいいかもしれない。もっとろくでもないことにならなければいいけど。
「面倒くせえ」
俺はただ一言「友達と勉強して飯食ってくるから遅くなる」と書いて送信した。そしてすぐにスマホを機内モードにする。
「……勉強でもするかな」
佐伯のバイトが終わるまで、俺のすることはない。日が完全に落ちるまで、俺は境内に座り込んだまま明日の英語の小テストの範囲を眺めていた。暗くなってからは、俺は佐伯に伝えたファミレスに移動してドリンクバーを頼んで待つことにした。
席に着くと、どうしてもスマホが気になってしまう。俺は思い切ってスマホの電源を切った。今頃家はどうなっているのだろう。繋がらない電話に母親がキレているところしか思い浮かばない。高2の男が門限6時なんて、おかしすぎる。もちろんそんなことになってる原因が俺だというのもわかってる。気分が悪くなるので、俺は目の前の問題集に集中することにした。家のことは考えない。悪いのは俺だ、俺がしっかりすれば、それだけでいいことだから。
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