マチアプデート

駅から徒歩15分。大学まで走って1分。


部屋が大学に最も近いシバイヌの柴田くんの部屋には今日も楽単寸前だったり、


バレないカンニング法を模索したり、


教授に媚びたり、


レポート提出日に文字化けファイルを送信したりするなどなど


ダメでクズでモテない奴らが集まるのでした。





「なぁトーシバ、お前コタツいつ片付けんの。」


トーシバは俺のあだ名。本名は柴田藤吉郎しばたとうきちろう。20歳のシバイヌ。


「光陰矢の如しって言うだろ。寒波は矢継ぎ早に来るんだから俺は常に備えてんだよ。カラシだってなんのかんのとくつろいでんじゃん。」


「そら、あったら入るわな。」


カラシと俺が呼んだこいつは同級生の鷹取爪之助たかとりそうのすけ。同い年のタカ。俺の部屋に勝手に上がり込んでは(鍵もかけてないけど)くだを巻くバカ。


部屋の常連の1人で、今も裏起毛タイプのこたつ布団にくるまってグダグダとしている。


「あー、女欲しー。」


「そういやメメント今日女とデートだってさ。」


メメントという不吉なあだ名で呼ばれた男もこの部屋によく来るやつで、本名が田貫愛麺人たぬきめめんとというイカレセンスの名を何の因果か付けられている。


「はぁ!?俺たちに対する裏切りだろそれ。ギルティやわ吊るせよ、狸汁にしようぜアイツ。…で、どういう女?」


「アライグマの女で結構かわいかったけど。あと乳でけえ。」


「はぁー…脱童貞はあいつがゲットか…」


「してたら俺も狸汁はやぶさかじゃないけどな。」


「…つーか、なんでトーシバは知ってて俺は知らんのよ。」


「開口一番ギルティで吊るすとか言うからだろ。」


「…はー、女欲しー。」


「先祖は鷹が由来なんだから攫って来ればいんじゃねーの。小猿とか攫って食ってたんだろ。」


「お前俺をなんだと思ってんだ。あと、そういうのは俺よりでっけぇイヌワシとかがやるんだよ。」


「タカとワシってちげぇの?」


「男の平均身長って170cmくらいだろ?」


「おん。」


「それよりでけえのがワシ。小さいのはタカ。」


「爪之助君って悪くは無いんだけどぉ、やっぱどっちかって言えば男はタカよりワシだよねーって言われるのがカラシ君ってわけか。」


「攫っちまうぞコラ。」


「ワシじゃないんじゃないのかよ。」


会話の終わり。無言の間。時計の針の音だけが部屋の静寂を否定する。


「…女欲しー…」


「…わかる。」


「今日バチアタリは?」


「鹿取はまた闇バイト。」


「またあいつ闇医者に角削ってもらって金せしめてんのか。」


「髪も角も伸びんのはええからな。奈良出身の寺生まれ寺育ちなのに。剃髪とかしねえのかねアイツ」


「あいつ言ってたんだけどさ、角削るオカピの女医さんがめちゃくちゃタイプなんだと。」


「んだそれエッチな看護とかして貰えんのか!?」


「46歳らしいぜ」


「ぶはっ。」


バチアタリ…煩悩の塊じゃねえか。そら髪も角も伸びるのも早いわ。


カンカンカン…


階段を急ぎ足に昇ってくる音がする。


この階にはたしか俺しか住んでないから間違いなく俺の部屋に用があるやつだな。


扉の前に出迎えに行くとそこには瞳に憎しみをたずさえたマチアプデートしてたはずのメメントが立っていた。


「どしたのメメント、はええじゃん。」


「メメントどうした、まだ14時だぜ。最近はラブホもハッピーアワーとかあんのか。」


「どうしたもこうしたもあるかよぉ。女はクソ!糞!kuso!」


溜息をつきながらコタツに足を突っ込んだかと思うとテーブル部分に両拳を叩きつけ、どかどかと体を揺すり吠える。


「ヤらせてくれなかったのか!おめでとう!お前はまだ仲間だな!」


「サガミとかオカモト買ってたら“メメント君0.01ミリとかがっつきすぎぃ~、女の子はぁ、グラマラスバタフライでもいいくらいの心の余裕持ってて欲しいんだゾ♡”とか言われたのか!」


「…トーシバそれ実体験?」


「うるせぇよ。」


「…アライグマの子とデート行ってきたんだよね美味しいご飯知ってるからって誘ってさ。」


「うん。」


「はい。」


「それで抹茶ぜんざいが美味しい蕎麦屋に連れて行ってさ、蕎麦食ってたら“メメント君さぁ、大きく音出して啜るのやめない?”って口出してきやがんの。」


「今んとこどうですかカラシ隊長。」


「メメントくん自身が蕎麦屋のせがれというところで自分のエリアの話題に持っていきやすいという小賢しさと蕎麦マウント取りたいのかな?という嫌な感じがやや透けて見えますが抹茶ぜんざいというスイーツの存在でまぁ隠し通せるでしょう。そこも小賢しいですが。」


「それは今関係ないでしょ。…でもさ、でかい音出して啜んのが粋ってもんでしょ。俺は江戸っ子なんだし。」


「まぁ、メメントは下町の蕎麦屋の倅だしなぁ。」


「下町のこと江戸って言うなよ。」


「ぶち殺すよ?」


「でも実際、江戸しぐさだかなんだか知らんけど最近は音出しすぎるのもなんだかなって気はするけどな。海外から来たやつからすれば嫌らしいじゃん、あれ。」


「そんでメメントはなんて?」


「実はさぁ、その子麺を途中で噛み切るタイプの子だったのよ。そっちの方がよっぽどじゃん、って思ってさ。“一根麺食べてんじゃないんだからいちいち噛み切らずに一口でいきなよ”ってつい言っちゃってさ。」


「まぁ、噛み切るのはたしかになぁ。」


「あんぐり大口開けて食われるのもあれだけどな。」


「それでまぁ、険悪な感じになってぜんざいも食べずに別れて、LINEもブロックされてたよ。でも、向こうはマナー悪いけど俺のはまぁ、伝統ある文化でしょ!?」


「メメント君はこう主張してますけどトーシバさんどうですか。」


「正直同レベルな気はするけどまぁ、そうですね…メメントさんに1つ質問です。正直にお答えを。」


「はい。」


「あなた今コンドーム所持していますね?」


「…誓ってしていません。」


「カラシ隊長!彼のボディチェックを。」


「YES SIR」


「やめっ、くっ、やめろぉ!というか隊長にやらせるなよ!」


「トーシバ裁判長、財布にこいつ2個も忍ばせてます!」


「銘柄は?」


「オカモトゼロワンです!」


「ハイ判決。メメント君。ボロクソ言った女相手に汚い性欲を抱いちゃってた時点でお前の負けだバカ酒買ってこい。」


「ぐぅっ…ぅっ…」


「童貞は捨てられずとも俺たち友はお前を見捨てなかったぞ。」


「バチアタリが来たら桃鉄すんぞ。…あいつ夜来んの?」


「ちょっと待ってバチアタリから今LINE来てた」


「なんて?」


「角削りの闇バイト先行ったら摘発されてたらしくて警官に見られたから今逃げ回ってるってさ」


「何してんだあのバカ。」

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る