フリマアプリ

駅から徒歩15分。大学まで走って1分。


部屋が大学に最も近いシバイヌの柴田(トーシバ)くんの部屋には今日も楽単寸前だったり、


バレないカンニング法を模索したり、


教授に媚びたり、


レポート提出日に文字化けファイルを送信したりするなどなど


ダメでクズでモテない奴らが集まるのでした。





講義を終えてここ最近鍵をかけた覚えのない自分の住まいに戻ると、2人分の靴が脱ぎ散らかされている。


どうやらバチアタリ(寺の息子、シカ。)とカラシ(馬鹿、タカ。)が来てるらしい。


それだけならいつもの事なんだけど、部屋に入るといつもならゲームをしていたり勝手に冷蔵庫を開けて酒盛りをしているのに今日は異様に静かだ。


何事かと思い、そぉっと部屋を覗くと薄暗い部屋の中ではバカ2人が“大量のなにやら白い粉”をひたすらチャック付きの袋に入れている。


おい、おい。おい!


「おいおいおいおいおい!」


「よぉトーシバ、あとでノート見せてくれ。」


「お疲れトーシバ、ボウルと小さじ借りてるよ。」


「っ、じゃねーだろ!なに人の部屋でイリーガルやらかしてんだコラ!またお前かバチアタリ!」


このバチアタリという男、本名を鹿取百郎太かとりひゃくろうたと言って奈良生まれ奈良育ち、親は偉い僧、シカの身体と筋金入りの仏教徒のはずなのになぜか普段からギャンブルに狂い目を離したかと思えば怪しいバイトやら治験に手を染めるおまけに熟女好きと煩悩まみれのバカなのだ。


「いやー、この前角削って取れた粉を秘薬として売るからってタダで角の処理してくれる上に金もくれた闇の女医さんがパクられてよぉ、LINEも交換してないのに…泣いたね俺は。」


「そうだぞトーシバ、バチアタリくんは今働き口がないんだ。友として手を貸すのは当然だろ。危ない橋を一緒に渡ってやるのもな。」


「…カラシはバチアタリのツテでいくら稼いだん?」


「神社で売る破魔矢の矢羽にワシの羽の代わりに使うからって俺の抜け羽を1つ50円で買ってくれるとこがあってトータル3万くらいは…」


「俺も紹介料貰えて懐ほくほくだ。いいってことよ。」


「産地偽装じゃねぇか。」


あと寺の息子が堂々と神社にバイトのツテを持つなよ。


「…それで?その粉何。場合によってはほんとに警察だぞお前ら。」


「心配すんなって、ただの食塩だよ。アジシオ。」


「舐めてみな、飛ぶぞ。」


確かに机にはスケールとボウルいっぱいの塩、匙、作業の合間に塩かけて食ってるであろうゆで卵があるから塩であることは間違いなさそうだけど…


「んなもんジップロックに詰めて何すんだよ。」


「そりゃあお前、白い粉だぜ?サバくのよ。しょっぺえだけのこいつらが値千金のヤベェ粉に変わるのよぐへへ。」


「いやなに、この作業を完成させるにはトーシバの存在が不可欠だったもんでな。協力してくれるな、おまえも金欠だろう?友よ。」


カラシは羽をわざとらしいほど大きく広げたと思うと俺の肩に手を置き、ニコニコと微笑む。


誰かを仲間に引入れる時にカラシはよくこの仕草をするものの、だいたいいつもろくでもないことが待っている。


「金なら問題ない、お前らいつもろくでもない、手助けするのは100%ない、早く帰れグッナイ。」


「なになに…『ハツカネズミっ娘ちぃず(20)が男優100匹とマルチなプレイ♡生○出し漬けで子孫繁栄ネズミ講S○X!』に、『鮮烈デビュー!現代版舌切り雀、ニュウナイスズメつづらちゃん(18)が自慢のスプリットタンで濃厚ヘビフェラ140分』ねぇ…」


後ろで俺のエロDVDパッケージをがちゃがちゃと弄りながらダイブツがパッケージを読み上げる。


「また新作買いかねトーシバ君。きみが金欠であることは明らかだぞ。」


「バチアタリてめえ!どこからそれを!」


「相変わらずいい趣味のAV買ってんねえトーシバ君。なに、君はフリマアプリを貸し出してくれるだけでいいんだ。」


「いやいや、自分の使えよ!手続きするのは諸々俺になるじゃねえか。」


「とっくに俺らはBANされてるんだよ。」


「中学の時のジャージなんて持ってても仕方ないのになぁ?高く買ってくれそうなショタコンに売ろうとしたらこれだ。」


いったい何が悪いのか分からない、という顔で頷き合うバカ×2。


「…それで俺に何を売れって?」


「それがこれよ。」


カラシがジップロックに入った塩を手に持ってピラピラと揺らす。


「いいかトーシバ、なにごとにも第一印象ってのは大事なもんでな。大して美味くもねぇレンチン料理を出すくせに『肉バル』とか『専門店』とか店の名前についてるだけで情報食ってるインスタバカが寄ってくるだろ。」


「ただの食塩が少しのプロデュースによって値千金になる…現代の錬金術を俺たちでやるんだよ。」


カラシがジップロックを掲げ、バチアタリが拍手で讃えるも部屋の蛍光灯がやや古いのかぼやけた光で照らされて不安にさせる濃い影が見える。


そろそろ買い替えなきゃ。


「…まぁ、理屈はわかったよ、とても成功するとは思えんけどな。ちなみになんて名前で売り出すつもり?」


「それならもう考えてある。ダイブツとふたりで練りに練った傑作バカ呼び寄せタイトルだ。」


総統が俺に見せたノートには…どれどれ….


『限定5g!奈良県産興○寺生まれ大型角持ちシカ男子が精製したスピリチュアル聖健康粉末!傷によし、病気によし、料理にもよし!あなたも取り入れてチャクラを満たそう!』


金額はワンパック9999円。


たしかにシカの角は薬効があるとされており、なんか角強盗問題にまで発展したこともあるそうだ。今は医療に使われるとして“厳重な専門の審査”をパスした者が“落ちた角を無償で提供”することで世界に回っている。


しかしこの袋に入っているのはただの食塩で、


バチアタリの角はまだ抜け落ちていない。


「商品偽装じゃねえかっっっっ!!!」


「人聞き悪いこと言うな、トーシバ。」


「そうだそうだ。」


「何が第1印象だボケ!!肉バルは肉が出てくるしからあげ専門店は唐揚げ出してくれんだよ!」


「まぁまぁ、言いたい事はわかるぞ友よ。ただ俺たちは何も嘘を言っていない。第一、これはちゃんとダイブツが手作業でパックに詰めてる。それを破格な値段で買える非合法なシカの角と勘違いしたバカが買うだけだ。」


「俺は正真正銘寺育ちだし、スピリチュアルと言ったからには念だって込めてやるんだ。ほれえいやっと」


バチアタリがぺちっと袋を指で弾く。


こいつ、これで念を込めたとでも言うつもりか。


「それに塩は母なる海が生んだ体に必須の成分だからな、病気料理になんでもござれ。どうだ、嘘偽りのない完璧な善意100%の商品だろ?」


「黙れ。詭弁と悪意に満ちた邪悪な物だこれは。」


「ところでトーシバよ。俺たちに内緒でときどき学食を一緒に食べている、黒柴犬の勝家かついえちゃんとかいう女の子がいたなぁ?」


「…っっっ!」


「彼女は小動物のエグい性癖DVDでシコってる男をどう思うかね?」


「売上はきっちり3等分だ。なぁに、お前は売上で勝家ちゃんとデートでも行けばいいさ。俺らもお前もみんな幸せ。ハッピーだろ…?」


「貴様ら…」


悪役顔2人がククク…と笑みを浮かべながら俺を取り囲む。


男友達ならAVを見られても特に問題ないとちゃんと隠すことをしなかった己を恨んだ。


やっぱり今度からはFANZAの電子版にしよう。




「…分かった、やるよ。ただし俺の取り分が6、お前たちは4の2等分だ。」



______


「もっとこう、アングラな感じ出せないか。」


「バチアタリの写真をモザイク入りで載せれば?ガタイいいから信ぴょう性上がるだろ。寺の息子なんだし作務衣も着せた方がいいな。」


「冴えてんな、トーシバ。」


「時計と日付も写真に映しとけ。」


「炙りがおすすめとか書くのは?」


「シカの角ってそんなシャブみたいな楽しみ方すんの?」


「しらん。」


______


「できたぞ…計200パック。」


「まず全部売れるとは思えねえけど10個売れるだけでも10万だからな。あとは世の中にどれだけバカがいるかだな…」


「始めようぜトーシバ、俺たちのバカを相手にしたトリリオンゲームをよ!」


「よっしゃ行くぞバカ共オラッ!出品!」


______


____


__



「で、あぶく銭が入ってくるだろうって期待だけで夜飲みに行って、金を使い果たした上に1個も売れず偽装表示の疑いがある商品を出品したとしてBANされたと。」


「メメント様お願いしますぅ。」


「3人合わせて所持金298円なんですぅ。」


「メメントパパに頼んで何卒温かいそばを…」


「3人ともバカじゃないの?」

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