メリケン波止場と液状化

 三ノ宮駅で一休みしたあと、海の方に歩いてメリケン波止場に行った。

 メリケン波止場は2年近く前に来たことがあった。そのときとほぼ同じ道を歩いたが、見覚えのあるレトロな建物がどれもこれも壊れていた。

 ビルの上に鉄塔がある建物の写真が手元にある。鉄塔は壊れて傾いていて、クレーンで撤去作業が行われていた。おそらく放送用か通信用のアンテナの鉄塔のはずだが、今となってはどこのなんという建物なのか分からなくなっている。

 メリケン波止場の手前にある高速道路のコンクリート橋は、これといって壊れてはいないようだった。

 その先の鋼製橋脚の2階建ての高速道路は、倒壊や落橋は免れていたが、「支承」が壊れて橋脚の上で橋桁が横にずれた状態になっていた。

 メリケン波止場は、護岸が傾いて海に沈み、ガタガタに壊れていた。

 壊れた理由は液状化で、埋め立て地は緩い砂地盤のため、地震で容易に液状化してしまう。

 液状化は、緩く堆積した砂地盤で起きやすい。元は川だった場所や、海辺の砂が堆積した低地、そして沼や湖、海を埋め立てた土地でよく被害が生じる。


 一升マスで米を測るとき、ザクっと米をすくった後に、トントンと叩くのが自然だと思う。こうすると米の粒子がゆすぶられ、余分な空間が埋まって、マスでより多く米をすくうことができる。

 砂も同じようなもので、揺さぶられると空隙が減って、砂全体の体積が減ろうとする。粒子が揃っている砂だと特にこの傾向がある。

 空気中だと単に砂の体積が減るだけだが、低地では地面のすぐ下に地下水がある。水は体積が減らないので、揺さぶられた砂粒は空間を減らして締まっていくのではなく、砂粒どうしの接触が切れて水に漂う状態になる。

 地震で揺さぶられた砂粒が水に漂い、全体として液体としてふるまうようになるのが、地震による液状化現象だ。液状化した砂は比重が2前後の重い流体になり、この比重より重いものは沈み、軽いものは浮き上がる。電柱や建物が沈み、内部に空間のあるマンホールは地上に飛び出す。他に、噴砂といって地上に泥水が吹き上がったりする。能登半島地震でも各地で液状化現象が起きた。

 液状化は、地質調査と計算で起きる可能性があるか否かを判定できる。東日本大震災のとき、液状化しないと判定された場所は液状化せず、液状化すると判定された場所の中に、実際に液状化する場所があった。

 地震で液状化が起きる場所は、次の地震でも液状化する可能性がある。困ったことに、液状化したら地盤が締まって強くなるのではなく、また砂が緩く堆積するだけなので、そのままでは強くならないらしい。


 神戸港では、埋め立て地が液状化し、港の護岸が傾いて背後の地盤が沈み、港の機能が大幅にダウンしてしまった。しかし、一部のふ頭は事前に「耐震護岸」として整備されていて、震災の時も機能を維持していた。

 今も、メリケン波止場では一部を壊れた状態で保存している。震災を忘れないためだ。

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