海中から伸びるいくつもの手……

 2月7日の火曜日。前日と同じメンバーで、同じように阪神電車で青木駅まで行き、国道43号線と高架の高速道路に沿って歩いた。そして、もっと先まで行ってみようということになった。

 国道43号を西へ西へと進むと、高架橋は左の海側に逸れて国道と別々になる。高架橋の下を進むと、橋脚のタイプが変わって、今まで見たのと違う壊れ方を見ることができた。

 それから交差点を左に行くと海の方に行く道があるのでそちらに向かった。行く先は摩耶埠頭。

 阪神大震災では、埋め立て地で液状化が多く発生していた。しかし、摩耶埠頭は海を埋め立てた土地ではなく元々の陸地を港に造成したもので、液状化の被害はそれほど目立ったものはなかったと記憶する。

 公式な記録ではどうだったかと、運輸省(当時)港湾技術研究所の報告書を確認したが、やはり、摩耶埠頭の地震被害は軽微だとある。参照したのは下記資料で、ネットにPDFが公開されていて無料で読める。


運輸省港湾技術研究所:港湾技術資料No.857『199年兵庫県南部地震による港湾施設等被害報告』1997年3月


 道の上からはさほど深刻な被害が見当たらないので、少し逸れて岸壁に行ってみた。


 !


 海の中で、水面に向けて掲げた、いくつもの青白い手のひらが見えた。


 まるで水中に沈んだ人々が助けを求めているかのよう。

 突然のホラーに驚いた。

 よくよく見ると、荷物のゴム手袋が梱包した箱ごと海に転落し、そのうちいくつかが指先を上に水中に沈んでいるのだと分かった。指先が上になるのはそこに空気が残っているのだろう。手袋が海水と馴染む青緑色だったので、ゾンビか何かに見えて完全にホラーだった(笑)。


 手袋はまだ落ち着いていられたが、そのずっと後に家の近所で、ブドウの棚にウエットスーツを干しているのを見た時は腰を抜かしそうになった。ぱっと見、ブドウの実と一緒に人間がぶら下がって死んでいるのかと思った。それからウエットスーツだと分かり、安心できた。


 閑話休題。

 摩耶埠頭からは、一般道と、高速道路の2本の橋が西の方に架かっている。どちらの橋も地震でそれなりに壊れているので、もっと先に進んでみようということになった。

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