第25話 破壊弾

「――S4級冒険者の本気中の本気、見せてやる」


 万有は指を鳴らし、コスモを展開する。普段なら展開後数秒経たずに消滅するはずのコスモだったが、今回はいつまで経っても消えずに居る。


「本来世界の果てまで伸び続けるコスモの半径を5mに制限する事で叶う、コスモの結界化。この結界内において、俺はあらゆる恩恵を受ける」


 万有が天井を指さすと、どこからともなく複数のこぶし大の隕石が降ってくる。かなり狭い範囲にまとまって降ってきた隕石は、普通ならゴブリンには回避不能のはずだった。


 しかしゴブリンは難なく回避し、万有の目の前に立って斧を振りかぶる。しかし額に刃先が当たる寸前で斧は止まり、ゴブリンがどれだけ力を入れてもそれ以上進まなくなった。


「無駄だ、今俺の周りにある重力は無限大。そんな常軌を逸した値にまで適応しようとすれば、お前の体は耐えきれず自壊し、て……!?」


 余裕ぶっていた万有だったが、僅かながらも刃先が進んでいるのを見て心底驚く。


(コイツ、無限大の重力にも適応しうるのか! つくづく、こいつらの技術力の底が知れん)


 後ろにジャンプして斧の振り降ろしをさける万有。


(思うに、コイツには僅かな時間だけ時を止める能力があるとみた。であればさっきの隕石群を咄嗟に避けられたことにも、俺や碧の背後を一瞬で取れたことにも説明がつく)


 ゴブリンは引き続き、舐めたような目線を万有に向けている。


(もしそれにクールダウンがあるとしたら……打つ手は1つだ)


 万有が拳をギュッと握り込むと、四方八方から無数の隕石群が降りそそぐ。広範囲かつ高密度の隕石群は万有をも巻き込むが、万有の周囲にある重力が隕石からその身を守る。


 ゴブリンはというとすでに隕石の当たらない安全地帯へ移動しており、憎たらしいにやけ面で挑発している。


(このまま隕石群の中に引き籠もって、アレンが提示した一分間をしのぐという選択もあるが……)


 ――それは、S4がする思考じゃない。


(やはり俺は人間だ、あいつのにやけ面を破壊してやりたいと思う。それに、せっかく初めてコスモの結界化を行ったんだ、もう少し色々試さなきゃ損だろう)


 下卑た笑いをゴブリンに見せ、隕石群を突っ切って向かう万有。一瞬動揺しつつも斧を構えるゴブリンだったが、斧を振り上げると同時に万有はゴブリンの懐に潜り込んだ。


 それから周りに散らばった隕石を一本のサーベルに変え、目にも留まらぬ早さでゴブリンの体を切りつける。


(隕石による無限の物体構築、そして普段であれば他の重力との兼ね合いで不可能な『重力による身体能力向上』。背丈三倍までの相手までは効果的と言った所か。そして――)


 ゴブリンの体に無数に刻まれた切り傷は、数秒が経った今ではすっかり完治している。


(こいつ、再生能力も高いのか! これ以上深いダメージを与えようとすれば重力を頼るしか無い、だが――)


 刹那、ゴブリンの姿が目の前から消える。それを瞬時に悟った万有、サーベルをメリケンサックに変えて右手にまとわせ、振り向きざまにゴブリンを殴りつける。


 重力の影響もあってか、万有のうなじに付いた切り傷は浅く済んだ。しかし万有の反撃を喰らったゴブリンは、腹を抱えながら背を丸め、口から絶えず唾液を垂れ流している。


(世界側の重力と自分側の重力で挟み撃ちする『重力拳』! 全身の臓器と骨に深刻なダメージを与え、再起不能にするワザ。これも外じゃ使えないワザだが……)


 万有が思いを巡らせる内に、ゴブリンは既に腹部の傷を治して立ち上がっていた。


(重力を使った攻撃には、物理攻撃込みとは言え適応し回復するか)


 メリケンサックを外し、両手を挙げる万有。


「や~めた。今のお前にとどめを刺す方法、俺には到底思いつかん。だから――」


 万有がコスモを解除すると、ゴブリンと万有は元の白い部屋に戻される。それとほぼ同時に、ゴブリンの頭を一発の弾丸が貫通する。


「後輩に任せることにした」


 ボルトハンドルを後ろに引き、銃をその場に投げ捨てて万有に向かって歩き出すアレン。


「で、今度はなにをしたんだ?」

「『破壊弾』。解析弾で読み取った相手の能力を破壊、使用不可にする弾丸だ」

「じゃあ今のアイツには適応能力と時間停止能力が無くなったわけだ」

「いや、破壊弾で破壊できる能力は1つだけだ。とりあえず厄介な時間停止能力を取り急ぎ破壊したが」

「なら俺はこれ以上相手出来ん。手の内全部明かして仕留めきれなかった以上、俺にはどうすることもできないからな」

「そうか、なら代わろう。時間停止が無くなった以上、僕でも相手が務まるは――」


 その時、今までずっと伏せたままだった碧が唸り声を上げながらゆっくりと立ち上がる。


「碧!」


 うなじに付いていたはずの深い切り傷はすっかり完治しており、その体からは赤いオーラが立ち上っていた。


(もしや地面を攻撃し続けて『アタリ』を引き当て、治癒力を高めて傷を治したのか?)

「……いつも迷惑掛けてるんだ、こういう時ぐらい!!」


 ククリナイフを拾い上げ、果敢にゴブリンに襲いかかる碧。ゴブリンを至近距離に捕らえた碧は、ゴブリンと互角のつばぜり合いを繰り広げる。


「横取りしてごめん! でも、迷惑掛けっぱなしじゃ気が済まなくて。君達はミトラちゃんの救出をお願い!」

「……いいんだな? 悪いが、そいつの特性上お前が窮地になっても上手く助けられそうにないぞ」

「良いの! だから早く!」

「分かった。アレン行くぞ」


 アレンは静かに頷き、電気椅子の上に座るミトラの方に向かう。アレンの後を追ってミトラの元へ行く万有だったが、その心中には一抹の不安がよぎっていた。

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