第6話 大失態
「ミトラさん。貴女の能力は、死に様を見たモンスターを召喚・使役できる能力です」
来賓室に移動して着席した二人が聞いたのは、そんな言葉だった。
「モンスターを、使役する能力のら?」
「ええ。自分が倒したモンスターだけでなく、討伐される所を見たモンスターも召喚出来ます」
「……いやいや、強すぎだろ。これのどこがF級冒険者だって?」
「ここだけの話、F級は戦闘力が無いと判断された者に与えられるランクです。これは公にしてない事なのですが、一度F級認定を受けるとその者は永久的にクエストへの挑戦権を失う事になっているのです」
「そ、そんな! アタシはもうクエストを受けられないのらか!?」
焦って立ち上がるミトラ。そんなミトラに対し、ミラは表情を変えずに告げる。
「いえ、この処置はあくまで一時的なものです。貴女の能力は非常に危険な代物。なので、貴女を導いてくれる保護者が見つかるまではモンスターに会わせたく無かったのですよ」
「さらっとコイツの面倒を俺が一生見る事が決まったな」
「アタシにはもう親も友達も居ないのら。なんで、よろしくのらよ」
「……そう釘を刺さずとも、今更捨てる様な真似はしねえよ」
ミラは手元の書類に軽くサインをし、ソレを小脇に抱えて立ち上がる。
「では、万有さまがミトラさんの保護者になるという事で決定ですね。ではランクの再認定を行いますので、ミトラさんは私に付いてきて下さい。万有さまも是非傍からその様子を見て頂ければ」
ドアを開けて外に出るミラに続き、万有とミトラも部屋を出るのだった。
◇ ◇ ◇
ミトラはグラウンドに行き、ミラの指示の下で体力テストを受け始める。
グラウンドには楕円状の競走用トラックと砂場、そして複雑なアスレチックがあり、アスレチックの奥にはボタンつきの机がポツンと置かれていた。
冒険者テストの流は、まず能力を鑑定する「水鏡式鑑定」をやり、そして身体能力を測る「体力テスト」を経てランクの発表に至る。
水鏡式で能力が無いと判定されたり、ミトラの様に危険な能力を持つ物は体力テストを受けずにF級に置かれる。そのためミトラは初めてこの場に立つ事となる。
(もしアイツが身体能力も高ければ即S級入りできるが……果たしてどうかな)
準備体操を終えたミトラがクラウチングスタートの姿勢を取るが、その姿を万有は強化ガラス越しに見ていた。
「ではテストの流れを説明します。200m走を終えたらすぐに走り幅跳びを行い、そのあとアスレチックに入ってください。そしてアスレチックの終点にある跳び箱を超え、ボタンを押したらゴールです」
「跳び箱? そんなの見当たらねーのらよ」
顔を左右交互に振って辺りを見渡すミトラ。
「ウチの跳び箱は特別製でして。踏み台に乗った際にジャンプ力を測定し、個人にあった段数の跳び箱が0から自動で展開されるようになってます」
「便利のらね。ちなみに万有が飛んだ跳び箱はどのくらいの高さだったのら?」
「12段くらいですね。10段以上飛ぶ事がS級の最低ラインともスタッフ間では言われてます」
「なんだ、そんなもんのらか」
「それはどういう――」
「見ればわかるのらよ」
ミラは不思議そうに眉をひそめつつ、手に持った旗を思いっきり振り上げる。それとほぼ同時にミトラは目の前から消え、少し後にすさまじい暴風が辺りを襲う。
(早い! 何度かS級の体力テストに立ち会った事があるが、今まで見てきたそれらを遙かに超えるスピードだ!)
あっという間に砂場に到着したミトラはその勢いのままジャンプし、砂場を飛び越えてアスレチックの入り口一歩手前に着地する。
踏みとどまれずに看板に頭を強打するミトラだったが、吹き出す鼻血と流れる涙を勢いよく拭ってからアスレチックに入る。
(……アイツのどこに、こんな力が眠ってたんだ!?)
猫のように、俊敏かつ柔軟に仕掛けを突破していくミトラ。その様子を、ミラは呆然とただ見ているだけだった。
そして踏み台付近に到達したミトラは、助走用のトラックの前で立ち止まり、深呼吸をして再び走り出す。
そのまま踏み台に到達したミトラは踏み台を力強く踏みつけ、天高く飛び上がる。そんなミトラを追うように、跳び箱は段数を増やして伸びていく。
(……いくらなんでも飛びすぎだ! そんなに高く飛んだら、後で大変な事になるぞ!)
やがて勢いは止み、ミトラの体は空中で制止する。好機を見いだしたミトラは、跳び箱のてっぺんに覆い被さるクッションの中腹に手を突いて体を前に押し出す。
こうして跳び箱を超えたミトラだったが、地面が見えないほどに高く飛んでいたミトラの体は自由落下を始める。手足をジタバタさせながら落下するミトラは、最終的に両脚で地面に着地する。
「痛っ……!!」
叫ぶ余力も痛みによって奪われ、ただ歯を食いしばりながら地面に倒れ込み、ぎゅっと縮こまるミトラ。ミラはその様子を見て、額に手を当てて首を振る。
結局ミトラが起き上がってボタンを押したのは二時間後で、これは体力テストの最低記録を大幅に更新する時間だった。
やっとの思いでゴールにたどり着き、ボタンを押したミトラの肩に手を置いたミラは、首を横に振って言う。
「貴女はE級です」
「えぇーっ!?」
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