第8話 愛実と麗子と正美
(愛実と麗子と正美)
翌日……
愛美は奇跡的に学校にいた。
普通なら朝まで絵筆をはなさない愛美だが、恵美が今日もモデルをやってくれると約束したので、午前三時には二人して抱きあって寝たのだった。
しかし、春の陽気に誘われて、心もそぞろで眠たい愛美だ。
「アミ、眠たそうね。また、朝まで絵を描いていたの?」
愛美は、机の上に頭をつけて寝ころんだまま……
「ま―ねー、でも、描いていたのは三時まで、後は寝たんだけど……、でも、偉いでしょう。学校に来てるんだから……」
「うんっ、偉い偉い。さっすが中学生っ!」
麗子は、寝ている愛美の頭をなぜながら、机の上に散らばっている髪の毛を整えた。
そこに、先ほどのホームルームで、委員長になった中山正美がやってきた。
「レイちゃん、あなたピアノ上手でしょう?」
「上手と言われるほどでもないけど……」
「私、知ってるわよ。小学校の時から、音楽会でもずっと聴いていたもの。でも、なかなか同じクラスにならなくって、話す機会がなかったの―」
「気にしないで、いつでも話してくれればよかったのに、正美ちゃんもピアノ弾くの?」
「私は、ぜんぜん途中で挫折したわ。だから、ピアノを弾ける人がうらやましくって……」
「なにいってんのよ!今からでも遅くないよ。もう一度挑戦してみたら?」
「もう―だめよ、時間がないの。塾で……」
「なるほど、ピアノが入試にあるのは音楽科だけだからね―」
「でも私、詩を書くのよ。ポーエム……」
「へ―えっ、なかなか文学少女ね―」
「だから、よかったら作曲して欲しいと思って?」
「な―だっ、そんなこと、つまらん!」
「レイちゃん。作曲とかしないの?」
正美は、麗子が作曲に興味を示さなかったことで、がっかりした顔を見せた。
「作曲、面倒くさいっ! それならアミの領分ね!」
「アミちゃんも、ピアノ弾くの?」
正美が呼ぶと、愛実はむくむくっと眠たそうな顔を持ち上げた。
「私、ピアノ嫌い……」
ほとんど上の空、それを聞いて麗子は……
「なにいってんのよ。それ、詩集……」
正美の胸に抱きしめている本を指差した。
「そうなの、私が書いた詩集なの―」
正美は、麗子に差し出した。
それは、白地のサイン帳らしく、カラーペンや色鉛筆で、色鮮やかにイラストもまじえて書かれていた。
「わ―あっ、かわいい。わりと、正美ってこまめね……」
かわいいと言う言葉に引かれて愛実も……
「私も見ていい?」と、正美に訊ねた。
「もちろんよ!」
麗子は、愛実に詩集を渡した。
「アミちゃんも、詩を書くの?」
「詩は書かないけど、絵を描くわ―」
「絵って、絵画。日本画とか、洋画とか?」
「そうよ。私は油絵だけど……」
「なにいってんのよ! アミはねー、本物のピアニストなのよー!」
麗子がじれったそうに叫んだ。
「ピアノも弾くの?」
「少しはね……」
「よく言うよ、このかまととが!」
「レイ、ちょっと言葉の使い方が違うんじゃない」
「同じようなものよ!」
麗子はいつも脈脱のない言葉を、その時の雰囲気で喋ってしまう癖があった。
麗子が続けて、話を進めた。
「正美、今日の昼休み、暇ー!」
「そうねー。別に何もないけど……」
「じゃ―あ、一緒に体育館に行かない。アミの正体を教えてあげるから……」
「レイ、大げさよー! でも、正美ちゃんもおいでよ。いい詩も見つかったから。曲をつけてあげるわ―」
愛実は、そろそろ授業だと思い、自分で長い髪をゴムで縛りながら正美に言った。
「ほんと!」
「もちろんよー! それから、ちょっとこの詩集貸してね。後でよく読んでみたいから―」
「いいわよ。よく読んで!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます