第9話 従妹は俺以外には氷のように冷たいようだ4

やがて、乗車の時間がやって来る。

俺達は、待合室から出て乗り場へと向かった。

乗り場には、うちの学校の制服を着た生徒たちが列を作っていた。

ほとんど、うちの学校行きの学生しか乗らない。

まあ、一般の方もたまに乗ってはいるがこの時間は学校関係者しかいない。

バスがやってきて列が消化されていく。

隣にいる茜は、人形になっている。

やがて、俺達も乗車していく。

なんとか入り口付近に座れる席があった。

まあ、1人用なので茜を座らせる。

俺は、彼女の隣に立ったままになった。

とりあえず、茜の壁になろうと思う。

この後もいっぱい乗り込んでくるだろうから。


「茜、窮屈かもしれないけどしっかり座っていてね」

「…うん」


ぴとっと茜音の頭が俺のお腹の辺りに預けられる。

えっと、お腹の音が鳴ると恥ずかしいな。


「えっと、茜…それは恥ずかしい」

「別に…」


うん、これは聞き入れてくれない奴だな。

甘えたいのか冷たくしたいのかどっちなんだよ。

俺は、少し笑いが込み上げてきた。

バスが、発車する。

車内は、ガヤガヤと賑やかだ。


「心臓の音…」


ああ、お腹に耳を当てて俺の鼓動を聞いてるのか。

別に、お腹に赤ちゃんがいるとかではない。

まあ、お腹と言っても腹直筋上部なので割と心臓にも近いと言えば近い。


「あっちゃんの腹筋…うふふ」


その表情で言われるとちょっと怖いんだけど。

ん?少し笑みがこぼれているな。

仮面がちょっと外れかけてる。

うん、俺の陰になって他の人に見えないからだな。

それから、学校前のバス停に着くまで俺の心臓の音をBGMにして茜は過ごしていた。

異常に恥ずかしかったのは言うまでもない。

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