第2話
地元にUターン就職して、五年目に入ったとき、横浜への異動が決まった。
大福が名物の老舗の和菓子屋は、入社時には福岡県内に七店舗のみだったが、看板商品の栗大福が著名人が選ぶ手土産として雑誌に取り上げられたことをきっかけに、大幅に売り上げが拡大した。
横浜国立大学卒の三代目社長は、関東進出の一号店を横浜の馬車道にオープンした。
その店の集客が好調だったので、横浜駅の近くには馬車道の店より大きな店舗を開いた。
馬車道店がオープンして一年半が経った頃、蒼は社長に、「おまえ、A学院の出身だったな。学生のとき横浜には行ったか?」と聞かれ、「よく行きました」と答えた。
異動したかったからだ。
「だったら横浜で営業主任をやるか?」
「はい」
蒼は二つ返事で横浜に出てきた。
******
引っ越しして三か月が経った。蒼は自宅のある石川町から桜木町まで、毎朝ランニングする習慣がついた。
地元では走ったこともなかったのに、住む街が変わればこれほど変わるものかと自分でも驚いている。
ランニングのコースは気分によって変えた。
歴史的建造物に囲まれ、大通り沿いを走ることもあれば、山下公園まで出て強い海風を受けながら走ることもあった。
そして、時には足を止め、万国橋の傍のベンチに腰を下ろし、息を整えた。
目の前には大きな観覧車やランドマークなどの大きなビルがずらりと並び、このうえもなく横浜らしい景色が広がっている。
その景色を見ると、横浜に出てきたなあとも、東京に戻ってきたんだなあとも思った。
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